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商品の発注ミスをした、コンビニの高校生バイトの肇はバックヤードで落ち込んでいた。
大学生バイトの綾香が、裏からジュースやお茶を補充しながら、
「どうした? 肇くんがミスなんて珍しいね」と、声を掛ける。
お客さんに、チョコサンドのパンを今日50個イベントで配りたいから、購入できるように数量を増やしていてほしい、と先日頼まれていた。肇は店長に報告して、発注をかけたのだが、チョコサンドではなく、同じシリーズのジャムサンドを発注していたのだ。お客さんに怒られるわ、ジャムサンドは余るわで、てんやわんやしたところだった。
肇はため息をつき、
「俺、失恋したんす。俺の好きな子、俺の親友と付き合うことになって……」
その事実がわかったのが発注する日だった。ぼーっとしたままチョコサンドのバーコードを読ませたつもりだったのに、ジャムサンドを読ませてしまったのだった。
「それは……大変だったね」
綾香は制服の下のジーンズのポケットから、自転車のカギを取り出した。カチャカチャとキーホルダーを外すと、
「これ、あげる」
と、肇に差し出す。
見ると、四つ葉のクローバーがラミネートされたキーホルダーだった。
「中、高の頃。幸運とか希望とか、そんなの信じて公園なんかでクローバーが生えているとこ見かけると、四つ葉のクローバーを探して集めてたんよ」
肇は慌てて首を振った。
「そんな。貴重なもの、いただけません」
綾香は笑った。
「そう、貴重って思うよね。四つ葉のクローバー、滅多に見つからないものって思うよね」
何故、綾香がおかしそうに笑うのか、肇は訝った。
「けど、四つ葉のクローバーをすぐに見つける人と出会って」
「え? すぐに見つかるんですか?」
「そう。本当にあっという間に、何本も摘んでこられて」
綾香は肩を落とした。「それまで信じて集めていたのが、何か……」
綾香の表情が失恋したときみたいに、寂しい表情になった。
「あ、ごめん。だから、気にしないで貰ってって話し。これから先、きっといいことあるよ。『希望』って意味であげる」
綾香にキーホルダーを握らされる。
「それに、すぐに見つかるからって、私が四つ葉のクローバーに執着しなくなったみたいに、何かきっかけがあったら、想い人のことも執着しなくなるかもよ」
暗いバックヤードを照らすような笑顔を浮かべたあと、綾香は飲料の補充の作業を再開した。
握らされた四つ葉のクローバーのキーホルダーが温かく感じたのか、肇の耳が真っ赤になっていた。
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