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第11章 新たな敵
石田は、古手川の死に伴う一連の事件を経て、警察を辞める決断をした。過去の影を断ち切り、新たな人生を歩もうとしたが、選んだ派遣社員の仕事は、思いもよらぬ苦悩をもたらした。
派遣先は、平出工業団地にある小さな物流会社だった。初日は期待と不安が交錯し、石田は自分の新しい役割に心を躍らせた。しかし、同僚たちの冷たい視線や、上司の威圧的な態度にすぐに気づいた。特に、派遣社員である石田に対して、津田寛治に似た先輩社員の西村は明らかに高圧的な態度を取った。
「お前、仕事できないんだから、もっと頑張れよ」と言わんばかりの言葉が続く。最初は耐えようと思ったが、その叱責は日々エスカレートしていった。
毎日の業務は、石田にとって苦痛の連続となった。西村は些細なミスに対しても大声で叱責し、周囲の同僚たちもそれに加勢してくる。彼の心の中には、再び古手川の記憶が甦り、過去のトラウマが蘇った。
「こんな職場に何の意味があるのか?」石田は自問自答し、心が疲弊していくのを感じた。家に帰ると、妻が彼の変化に気づいていたが、石田は「大丈夫だ」と言い聞かせるしかなかった。
ある日、石田はついに耐えきれなくなった。仕事中にミスを指摘され、西村からの叱責がいつも以上に激化した。「お前はこの会社に必要ない!」という言葉が胸に突き刺さる。涙がこぼれそうになったが、堪えた。
その晩、石田は過去のことを思い出していた。父の自殺、古手川の死、そして今の職場での苦痛。何かを変えなければならない。そう強く思った。
石田は、自分の状況を変えるために行動を起こすことを決意した。まずは人事部に相談することにした。自分が経験しているパワハラについて、証拠を集めて話す準備を始めた。
一方で、彼は同じように苦しんでいる派遣社員たちと接触し、情報を共有することで団結を図ろうとした。仲間がいることで、少しずつ勇気が湧いてきた。
数週間後、石田は人事部に自らの経験を語り、正式な報告書を提出した。その結果、会社は調査を開始することとなった。西村も一時的に謹慎処分となり、石田は少しの安堵を感じた。
同僚たちの反応も変わり、石田を支持する声が増えていった。彼は、ただ耐えるだけの存在ではなく、自分の権利を主張する力を手に入れたのだ。
石田は、過去の痛みを乗り越え、新たな道を切り開こうとしている。パワハラの問題に立ち向かうことで、彼は自分自身を取り戻し、希望を見出すことができた。人生の新たな一歩を踏み出した石田は、決して一人ではないと感じていた。
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