第12.5章 追跡の果て

1/1
前へ
/25ページ
次へ

第12.5章 追跡の果て

 松田はドライバーの渡瀬雅弘を取り押さえながら、彼の動揺した様子に疑念を抱いた。「裏の組織に追われていた」という言葉は、単なる逃げ言葉ではないと感じた。周囲の人々が見守る中、松田は彼を警察車両に連れて行き、事情を聴くことにした。  取り押さえられた渡瀬は、震える手で顔を覆い、「俺は…もう逃げられない」と呟いた。松田は彼の目を見つめながら、「一体何があったのか、詳しく話してくれ」と促した。  渡瀬は、かつての職場でのハラスメントの経験を語り始めた。「数年前、俺は大手企業で働いていた。そこで上司からのパワハラに苦しんでいたんだ。毎日のように精神的に追い詰められて、逃げるように辞めた。けれど、辞めた後もその影は俺を追ってきた」  松田は彼の話を静かに聞きながら、渡瀬の痛みを理解しようと努めた。彼はさらに続けた。「最近、俺の元同僚が亡くなった。彼も同じように追い詰められていたんだ。あの時の上司は、どうやら組織と繋がっていて…」  渡瀬の言葉に耳を傾けながら、松田は彼が今抱えている恐怖を理解した。ハラスメントの根底にあるものが、再び彼を襲ったのだ。松田は決意した。この事件の真相を追い、渡瀬の無実を証明することが必要だ。 「君を守るために、全力を尽くす」と松田は約束した。渡瀬は少しだけ安心した表情を浮かべたが、目には不安が色濃く残っていた。  松田は早速、渡瀬の元職場に連絡を取り、彼の言う上司や同僚たちの情報を集め始めた。また、渡瀬の過去を調査するため、彼の元同僚たちに話を聞くことにした。彼の話が真実であることを証明する証拠を探す必要があった。  一方、松田の行動を警戒していた組織は、彼に接触を試みる。ある晩、松田は自宅に帰る途中、見知らぬ車に尾行されていることに気づいた。彼は警戒心を強め、急いで警察署に戻ることにした。  松田が署に戻ると、渡瀬が待っていた。「何か進展は?」と尋ねる渡瀬の目には、期待と不安が交錯していた。松田は「証拠を集めているところだが、何か危険な気配を感じている」と答えた。  その瞬間、署内に緊急の連絡が入った。最近、元職場での怪しい動きが報告され、警察がその監視を強化することになったという。松田は急いで情報を整理し、渡瀬を守るための計画を立て始めた。  松田は渡瀬と共に、元職場の同僚たちに接触し、彼の経験について証言を集める。次第に、渡瀬が受けたハラスメントの実態が明らかになっていく。彼の元同僚たちも、同様の苦しみを抱えていたことがわかり、松田は彼らを警察に招いて証言してもらうことを決めた。  一方、渡瀬の行動を監視していた組織は、彼の動きに気づき、さらなる圧力をかけてくる。松田は、事態が一刻も早く解決しなければならないと感じていた。  宇都宮市内での事件は、ただの交通違反から深刻なハラスメントの問題に発展していた。松田は、渡瀬のため、そして自らの使命感のために、真実を追求し続けることを誓った。夜の街に響くサイレンの音は、彼の心に新たな決意を刻んでいた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加