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以前、岸本コーチがステージに上がっているとき、私は遠いところにいる人を見ている気持ちだった。
誇らしげにポーズを取りながら声援を受けているその姿。ライトに照らされて輝いているその筋肉。きらきらと輝く笑顔。
楽しげに流れる音楽。盛り上がる会場。
そんな中で何者にも裏切られない、そんな自信に満ちた姿。
テレビで見ていた時なんて、遠く遠く届かない場所だと思っていた。
だけど、今。
「美しいよー!」
「ナイスマッスル!」
声援の飛び交う中、私はここにいる。
岸本コーチと同じ場所にいる。
嘘みたいだ。
ヒールを履いてポーズを取る練習を何度もした。
体もがんばって作った。
一年でこんなところまで来れるとは思わなかった。
今日は、私が死んでしまう日だ。それが大会の当日に重なった。嘘みたいな本当の話だ。
あの日は、貴志に置いて行かれて一人で熱にうなされていた。そして、さみしく死んでしまった。
それなのに同じ、いや、全く違う一年を過ごした私は、ステージで歓声を浴びている。
今、私は幸せだ。
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