14 私のステージ

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 以前、岸本コーチがステージに上がっているとき、私は遠いところにいる人を見ている気持ちだった。  誇らしげにポーズを取りながら声援を受けているその姿。ライトに照らされて輝いているその筋肉。きらきらと輝く笑顔。  楽しげに流れる音楽。盛り上がる会場。  そんな中で何者にも裏切られない、そんな自信に満ちた姿。  テレビで見ていた時なんて、遠く遠く届かない場所だと思っていた。  だけど、今。 「美しいよー!」 「ナイスマッスル!」  声援の飛び交う中、私はここにいる。  岸本コーチと同じ場所にいる。  嘘みたいだ。  ヒールを履いてポーズを取る練習を何度もした。  体もがんばって作った。  一年でこんなところまで来れるとは思わなかった。  今日は、私が死んでしまう日だ。それが大会の当日に重なった。嘘みたいな本当の話だ。  あの日は、貴志に置いて行かれて一人で熱にうなされていた。そして、さみしく死んでしまった。  それなのに同じ、いや、全く違う一年を過ごした私は、ステージで歓声を浴びている。  今、私は幸せだ。
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