1 幸せだと思っていた

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1 幸せだと思っていた

 幸せだと思っていた。だって私には優しい夫がいる。  そう、優しい。  私はリビングのソファに座りながら、時計を見てため息をつく。 「もう10時だよ……」  もちろん朝じゃなくて夜の。  冷蔵庫の中には夫・貴志(たかし)の大好きなハンバーグが入っている。すでに材料と一緒にこねてあるので、後は貴志が帰ってきたら焼くだけでいい。本当は焼いておいた方が楽だけれど、できれば貴志には焼きたての美味しい状態で食べて欲しい。  それとシャキシャキの新鮮な野菜のサラダと、たっぷりとトマトを入れて煮込んだミネストローネ。  帰ってきてこのメニューを見たら、きっと喜んでくれるに違いない。  もちろん、私も食べないで待っている。  だって、貴志が一生懸命残業してくれているのに、先に食べてしまうなんて出来るわけがない。  お腹は、かなり空いているけれどがんばっている貴志のことを思えば我慢できる。  我慢、出来る。とは、思っているんだけれど……。  いい加減、そろそろ帰ってくるはずだ。  ソファから立ち上がろうとすると、 「……っ」  なんだか目眩がして、慌ててソファにつかまった。  嫌になってしまう。私は子どもの頃から体が弱い。体育もみんなが運動しているところを、見学していることが多かった。  今はお腹が空いているから余計に力が入らない気がする。 「貴志、早く帰ってこないかな……」  私の顔を見て、大丈夫? って声を掛けて欲しい。それだけで、体力が回復するような気がするから。  そんなことを思っていると、玄関の方からガチャガチャと鍵を回す音がした。
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