1 幸せだと思っていた

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「貴志!」  私は玄関へと急ぐ。やっと帰ってきてくれた。  玄関のドアが開いて、貴志の姿が見えた。  同じ会社に勤務していた時から思っているけど、スーツ姿の貴志はやっぱりかっこいい。  貴志が顔を上げる。そして、嬉しそうな顔で私の名前を……、 「……美歩(みほ)」  違った。  なんだか疲れたような顔で、私の名前を呼んでため息をついた。きっと、仕事が忙しかったに違いない。 「おかえり。残業大変だったでしょ? すぐご飯にするね」 「……はぁ」  貴志が再びため息をつく。 「いいよ、もう食べてきたから」 「……そっか。ええと、コンビニのおにぎりとか?」  私は職場で仕事をしながら片手でおにぎりを食べている貴志を想像する。 「でも、それならあったかいミネストローネだけでも食べる? あっためるだけで出来るから」 「いい」 「じゃあ、すぐにお風呂入れようか」 「疲れてるからもういいよ」 「え、そんなのダメだよ」 「いいって言ってるだろ、面倒くさいな」  靴を脱いだ貴志が私の横を通り過ぎていこうとして、 「あ」  肩がぶつかっただけで私はよろけて尻餅をついてしまった。
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