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決勝に残れなかったのは気にしていない。ここまでこられただけで、本当に嬉しい。
もちろん負け惜しみなんかじゃない。決勝まで行けなかったといって、やめるつもりもない。いつかはそこまで行ってみたいとすら思う。
今はここまで来ただけで嬉しいというだけだ。
今の私なら、何でも出来る気がする。
出番が終わった私は、客席へと向かっていた。まだ岸本コーチは残っているのでそれを見たいのもある。だけど、もっと大事なことがある。
この勢いで言ってしまうつもりだ。
もしも、私が今日の夜死んでしまうとしてもやっぱり伝えておきたかった。
客席に向かうと、まだそこには貴志がいた。
私と目が合うと、さっと立ち上がって行ってしまう。
「ちょっと、待って!」
まだ決勝も見ていたいのに。
それでも、私は貴志を追いかけた。
そして、会場のロビーに逃げ出した貴志の腕を掴んだ。
「観客として来たんじゃないのかよ。お前が出るなんて、き、聞いてないんだけど! つか、なに? あの筋肉。お前、体弱いんじゃなかったのかよ。気持ち悪いんだよ!」
「ああ、そう」
私はそれだけ答えた。
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