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一応、あれが私だとはわかったらしい。
もしかして、鍛えすぎて別人だと思われたらどうしようかと思っていた。それはさすがに心配しすぎだったみたいだ。
が、気持ち悪いという言葉は聞き捨てならない。
今、この場所でそんなことを言える神経が全く理解できない。
「ここでそんなこと言ったら他の人にどう思われると思う?」
「……っ!」
みんなまだ大会を見ているためロビーにほとんど人はいない。それでも、貴志には効いたようだ。さすがに完全にアウェーだということを悟ったようだ。
なんだかきょろきょろと周りを見て怯えた様子だ。
まさか、ボディビルダーの集団に囲まれて酷いことをされるとでも思っているのだろうか。
私が会ったスポーツをする人たちの中でそんなことをするような人はいない。今日の参加者の人たちだって全員を知っているわけではないけれど、貴志が怖がるようなことなんか起こるはずが無い。
私はそう思っている。
筋肉を信じているから。
だけど、そんなことを貴志に言って安心させてあげるほど、今の私は慈愛に溢れてはいない。
わざと貴志を怖がらせるような言い方をしたのも私だ。
だけど、それは単純に私自身が貴志の言葉を許せなかったからだ。
貴志の発言は、私だけではなくここにいる全ての人を馬鹿にしているように聞こえる。
「つーか、離せよ」
貴志が私の手を振りほどこうとする。
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