A book of Your Story

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A book of Your Story

軽く取った一冊だった。 ほんの軽い気持ちで手に取ってみたその本。 特に目新しいものではなく、何処にでもある紙の素材で作られた本。 所謂B6判の単行本のサイズだ。 全体的に白く表紙絵は大きな鏡が描かれていた。 鏡の部分は銀紙であしらわれ、ちょうどそこに自分が投影されるようにできている。 タイトルはYour Story。 おかしい……。 何がおかしいのかって? それはねっ、こんな本は注文した覚えがないんだよ。 店長に確認しよう。 「店長ーー」 あれ? おかしい、先程までレジの方にいたのに。 「ああ、また煙草か」 仕方が無いので、私はまた注文票を確認することにした。 「うん、やっぱない」 普通なら、どうして注文もしていない本が紛れているのか驚くかもしれない。 でも、私は驚かない。何故なら……。 「また山梨さんの仕業だな」 そう、新蝶文庫の山梨さんが、きっとお試しで入れたに違いない。 私達にまず読ませ、仕入れさせようとしているのだ。 「そんなんには引っかかりませんからねーー。まっ、タダで読ませていただきますけど」 固い表紙を捲ると、一枚の薄いつるつるとした半透明の紙が現れた。 「グラシン紙じゃん、めずらし」 なんとなく本を横にして息を吹きかける。 ブーブー 子供の頃これでよく遊んだな。 今はもう閉鎖されてしまったが、かつて私の父は製紙工場で働いていた。 そして余ったこのグラシン紙をお土産にくれたのだ。 「そういえば、これを使ってトレーシングペーパーの代わりに良く漫画を写したりしたっけ」 こう見えて私は自称漫画家の卵なのだ。 なんせコンテストの二次審査まで通ったのだから、そう言ってもおかしくはない。 「って、遊んでる場合じゃないな。さってと、どんな本なんだろう」 私は次のページを捲る。 そう、目次だ。 よく最初から読む人は最期まで目を通さないと言われるが、私の場合は違う。 目次は私にとって地図と同じ、この分厚い本の世界に飛び込む際に道に迷わないために、どんな道筋となっているのか、ある程度頭の中へ叩き込むのだ。 自慢じゃないが、目次の内容を憶えるのに私は5秒も必要ない。 「さあ、かかってきなさい!?」 ……。 「なんじゃこりゃ、目次って書いてあるのに、一、二、三とか数字しか書いてないじゃんか」 「はっ」 私は店内で大声を出していた事に気付き、慌てて口を本で隠すと目をキョロキョロと左右に動かし、書店内を見渡した。 「おかしいな? 誰もいない。てか、まだ中野も戻ってないじゃん」 中野とは店長のことである。 店内に居ない場合、呼び捨てにしている。 肩書きを良いことに、好き勝手してサボってるのでムカつくのだ。 呼び捨ては、私なりの権力に対してできる唯一の小さな抵抗である。 気を取り直して目次を飛ばし、本編へと進むことにした。 タイトルからして、何かしらの小説かなにかだろう。 そう私は実際のページを捲るまで思っていた。 この本の主人公 名前:沢渡 かなめ 年齢:19歳 職業:漫画家の卵、現在バイト 血液型:B型 口癖:駆逐してやる 好きな物:猫、小動物、クッキー(チョコの入ったやつ)、冷ややっこ 趣味:読書、漫画を描く事、店長の名前を呼び捨てにすること。VR 身長:158cm (実際は155、ヒールで盛ってる) スリーサイズ:B88 W58.9 H83 バタンッ!? 誰かに見られてるわけではないが、私は恥ずかしさのあまり本を閉じ膝をついた。 「ちょっ、嘘でしょ。これって私のことじゃんか。しかも、なんでスリーサイズまで。てか、身長盛ってないし」 「いやいや、何を私は慌ててるんだ。これは小説じゃんか、偶然だよ偶然。きっと、そうだよ」 私は一人ごちると、気を落ち着けたあと改めて本を開き直した。
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