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「申し訳ございませんでした。生きながらえたかもしれないのに、私が彼を殺しました。おそらくお金のために。私欲のために」
心の中で謝罪する。何度も、何度も。
死を選択する権利。
尊厳死。
安楽死。
日本では医師の道を歩むうえで議論することさえタブーだ。誰もが目を逸らす。考えることをしない。思考することを避ける。
医師による自殺幇助。
この国の考え方は日本より進んでいる。
人々が真剣に議論している。だが、隣国スイスの様にはまだ正式に認められてはいない。
その是非の入り混じった状況の中で、私と、その仲間たちの間ではビジネスとして自殺幇助を行っていた。
私が所属している通称「死神の手」と呼ばれる組織は、病院の垣根を越えて十二人の医師で構成されている。所属といっても、互いに干渉はしない。ただルールを定め、「死」の価格を決定し、万が一このビジネスが明るみに出た時の処理を行うための組織。その組織を纏める者の存在は誰も知らない。呼び名さえない。
その見えない存在が、私に恐怖を与えた。
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