第1話 死神の手

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 もしも今回のことが知られればどうなるのか。  組織を介さずに、私欲のために勝手な仕事をしたと知られればどうなるのか。 「いっそ死神の鎌で私の首を()ねてよ」  病床にあったシュミットさんと私の願いとでは、言葉を同じくしても別の種類のものだ。動機が違う。  彼は生きた褒美としての「安らかな死」を求め、私は罰としての「苦役を強いられぬ死」を求めている。私はあまりに身勝手だと自嘲し、両手で自分の頬を挟むように打ち付けた。  その頬の痛みは、私が地獄の道に落ちた日を思い出させる。  私が「死神の手」に加わったのはひとりの男が原因だったが、それはもしかしたらあの目に見えない存在に用意されていた道だったのかもしれないと、今にしてみれば思えて仕方がない。 「ココロは日本人だったね」 「ええ。トビアスは日本には行ったことあるの?」  ベッドの中でひと通りのコトを済ませた後に互いを知るなど、古い人間なら「順序が逆だ」と言いそうだし、若い人間なら「食っちゃった後に聞いたんだけど」と自慢しそうだ。私はそのどちらでもない。 「ある。沢山抱いたよ。ココロのようによがる女をね」
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