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私は自分で気付いていた。執刀医として忙殺されていたこの頃には、もう手遅れになるほど壊れていたと。多くの死と向かい合ってそうなったのか、女であることを突きつけられることに疲れたのか、それは分からない。
私はゆっくりとトビアスの命が剥がされていくのを見ていた。そして、完全に彼がただの動かぬ組織の塊となったのを見届けて部屋を去った。
その数時間後、勤務時間を過ぎても連絡がない彼の部屋を訪れた上司により、思っていたよりも早く彼は病院に運ばれた。
この時に私は一度終わりを覚悟した。
だが、彼が運び込まれた病院の検案書により、警察は病死と判断した。
ありえない。私はそう思った。彼の遺体の発見が死後七十二時間も経っていれば、急性心不全と判断するしかなかっただろう。しかし、半日も経たずに検視を行えば、必ず血中から私が投与した物質が検出されるはずだ。
そして私が思っていた通り、その検案書を作成した医師は見抜いていた。その上で私の腕を買われた。強引に。
「兼高こころ。君が殺人者になったと知ったら、ご家族は悲しむだろうね。それだけで済めばいいが、世間は怖い。法以上にね」
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