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「なぁ、」
一定の距離を保っていた彼がこちらへ向かってきて、近づく。至近距離で、目が合う。
「……菜々さんのこと、忘れさせてくんない?」
思えば、最低な始まり方だった。
「嫌だったらすぐにでも殴って、逃げて」
顎を掴まれて顔を寄せられて、傾いた綺麗な顔しか視界に入ってこない。なんで私なんだろう。なんで今日初めて話したクラスメイトの私なんだろう。……きみの瞳に映る私はいまどんな顔をしているんだろう。
私の瞳に映るきみは、今にでも泣きそうで、拒むことなんてできなかった。突き放すことができなかった。それはきっと、辛そうで泣きそうな顔をしていることもあるけれど、たぶん、もうひとつ──
「……嫌じゃ、ない」
震えてしまった声を確認してから、彼は私に触れるだけの優しいキスを落とした。この時の柔らかい感触だって、今も鮮明に思い出せる。
明らかに私を利用しようとして、自分の都合のいいように私を使おうとしてるなんて、わかってた。わかってたのに私は、たぶん。
シャツの隙間から見えた赤い跡を見てから、きみへのドキドキが止まんなくなって、謎ばっかりなきみのこと、もっと知りたいって思っちゃったから。うん、と頷いちゃったんだ。
*・゚・*
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