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僕もよく忘れ物をする。先生やママに叱られることも多い。忘れることはいけないことで、寂しいことだと思ってしまう。
「何か悔しくなるよ」
「仕方ないさ。記憶を積み上げられないのもまた辛いことだ。たとえ本人が理解してなくても」
必要ないから忘れてしまうんじゃないのか。だって、僕らのことを覚えてなくても、迪子さんは生きていけるのだから。
不意に思い当たった。
さっきから感じる、すうすうしたこの気持ちの原因が達ちゃんであることに。結婚もせず気ままに生きて、家族から好き放題言われている叔父さん。そして、彼の後を継ぎたいと考えてる僕にとって、その生き様が自分の未来と重なることに不安があるからだ。
「ねえ。もし達ちゃんがコドクシしても、僕がちゃんと骨を拾ってあげるからね」
「縁起でもないこと言うな! 大体、何で俺が孤独死するって決め付けるんだ」
「だって貧乏だし、お嫁さんどころか彼女もいないじゃん」
「どんな発想だよ。お前に心配される筋合はない」
達ちゃんは眉間にシワを寄せたが、僕の様子を見てため息をついた。視界が滲んだ僕をぎゅっと抱きしめて頭を撫でてくれた。煙草臭いけど温かい。
「どうしたんだよ、急にセンチになりやがって。お前らしくもない」
「だって、うちの家族は探偵なんてくだらないって、口を揃えるじゃない。でも、僕は達ちゃんの味方だからね」
「ありがとな、郁」
達ちゃんがふっと笑った気配がして、髪の毛をわしゃわしゃと掴まれた。
「大丈夫だ。家族の絆はそう簡単には切れないぞ。それに第一、絶縁が怖くて信念曲げられるかってんだ。俺たちは堂々と胸を張っていりゃいい」
「…でも」
「探偵って職業は何の保証もないし、俺なんて安定の公務員を蹴ってるからな。姉貴もお前のことを心配してるんだよ」
「そんなの夢がなさすぎるよ」
ははっと達ちゃんが笑った。
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