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「夢だけじゃ食えないからな。何でもするつもりだ。それに傍から見たらどんなに小さな悩みであっても、俺のとこにまでわざわざ来るのは、その人にとって大事なことだと思うからさ。力になりたいんだ」 「今日なんてタダ働きじゃない」 「お前が持ってきた話なんだから、お前から貰うに決まってるだろ」 「ええー? 何でそうなるの」  腕を掴んで抗議の声を上げると、達ちゃんは楽しそうに言った。 「出世払いだな。静子さんにも施設長にも名刺だけは渡しといた。地道に行くしかねえよ」  飄々とする達ちゃんは、車に乗り込んでエンジンをかけた。僕もアルを抱っこして助手席のシートベルトを締めた。 「たとえ歳をとっても、大事な誰かを忘れるなんて僕は嫌だな」 「そればっかりは仕方ねえよ」 「でもさ、例えばお酒とか煙草をやめたら、体にも脳にもいいんじゃないの」 「まあ、それは…」 「ご飯もちゃんとバランスよく食べてさ」 「うん…」 「やっぱり結婚はしなよ。今は共働きが普通だし、コウハとモテないのは別だよ」  達ちゃんは憮然とした横顔でハンドルを操る。 「いや。俺が自炊すればいいんだろ」 「お米も炊けないのに何言ってんの」 「うるさいな。お前が小姑みたいになってるぞ」 「コジュートって何」 「結婚する気が失せるってことだよ」  少し険悪な雰囲気になった車内で、アルがわんっと吠えた。僕は少しの間黙って窓から夕暮れの景色を眺めた。 大切な人もその人との想い出も忘れたくない。全部持って行けないとしても、いつでも取り出せるように心の中に集めておきたい。交わした言葉、一緒に過ごした時間、聴いた音楽や読んだ本のこと。 達ちゃんのハードボイルド論も、いつかは懐かしく思い出すのかもしれない。 「とりあえず、僕とアルがいるからさ。パパも」 「身内にモテてもな」  達ちゃんは皮肉を言ってから、唇の端を少し上げてボルサリーノを(あみだ)に被った。僕の受動喫煙を避けるべく、煙草の代わりにロリポップを口にくわえている。 自慢の叔父はやっぱりカッコいいなと密かに思った。
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