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*  高校二年の終わり、まだグラウンドに雪が残っている頃だった。  同じクラスのある女子に、放課後に校舎裏に来ることをお願いされた。  ある意味、荒んでいた僕は 「まーた吉澤に告白するためのつなぎ役のお願いかな」  とか考えながら校舎裏に向かった。  すると、そこにいたのは僕を呼びだした女子ともう一人、黒のストレートロングの榎田エリがいた。 「私、山瀬くんのことが1年のときから好きで、みんなといつも笑っているのがいいなって――」  僕が誰かに告白されるとか想像したことがなく、僕は内心、戸惑った。  僕もまた、クラスの中で控えめな存在ではあったけれど、慎ましさみたいなものがある榎田エリのことはかわいいなと思ったりはしていた。  しかし――、 「ごめん。いま、誰かとつきあうとかそういうことは考えられなくて」  僕は榎田エリの告白を断ってしまった。 「それって吉澤くんのことがあったせい? エリがあいつを振ったから?」  榎田エリの隣にいた女子(名前は忘れてしまった)が僕に向かって言った。榎田は俯き、泣いているようだった。  吉澤のことが頭の中で()ぎったことは、たしかだった。「友情」なんて言葉が正しいのかはわからないが、僕は、吉澤のことを親友だと思っていたし、クラスの中心で最前線で動くことのできる彼を尊敬すらしていた。 「それはあるかもしれない。表立ってつきあってあいつと話しにくくなるのは少し困るし、あいつに隠れてつきあうのは榎田さんに失礼だよ。榎田さんは何も悪くない。僕は器用じゃないんだ」  うまくバランスを取ればどうにでもなることを、あの頃の僕はできなかった。 「バッカじゃないの? エリ、行こ。こんな奴のこと好きになったこと自体忘れよ!」  彼女の友人が泣いている榎田の手を引いて、連れ去っていった。  忘れてくれるならそれで構わなかった。  しかし、榎田は高校の卒業式のあとに僕に手紙をくれた。  いまならLINEやいろんな方法でメッセージを伝える方法が高校生にはあるだろうが、あの頃は手紙が多かった。僕は彼女からもらった手紙を捨てることはできず、あの本に挟んだまま一人暮らしの部屋へと、持っていってしまったのだ。  それがいつか、吉澤の手に渡るとは想像することもできずに。
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