手紙

1/6
前へ
/6ページ
次へ
朝、リビングに行くと、食卓には僕の大好きなパンケーキが乗った皿が置いてあった。 焼きたての良い匂い。生クリームと艶やかなイチゴまで添えてある。 「ユイ、朝から焼いてくれたの?」 感激しながら同棲中の彼女に訊くと、彼女はエプロンを外しながら、にっこりほほ笑んだ。 「タカトの喜ぶ顔が見たかったの」 照れたようにそう言うと、ユイはいつもの様に出勤の用意を始めた。 忙しい合間を縫って、いつも僕に最善を尽くしてくれる。 とても愛おしい人。 けれど、結婚は出来ない。 「ねえ、ユイ、ほんのちょっとだけ、話をしない?」 勇気を出して切り出してみた。ついさっきまでは、言わないつもりだった。 けれどパンケーキの優しい香りが心を揺り動かす。 「ごめん、電車に乗り遅れちゃうから、またあとで。今日のパンケーキ美味しいと思うから、ゆっくり味わって食べてね」 僕の勇気など知る由もないユイは、いつもの様に爽やかに笑うと、軽く手を振って玄関ドアを飛び出して行った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加