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簡単な身支度を整えて、僕は改めて二人で過ごした1DKの部屋を見回してみる。
2人で選んだテーブル、食器、ビーズクッション、カーテン。部屋のいろんなところに浮かぶ、ユイの笑顔、ふとした仕草、僕を呼ぶ声、パンケーキの香り。
僕は首を何度も振って、辛い気持ちを弾き飛ばした。
もう忘れなきゃ。これからはまたちゃんと天上界で自分の仕事を全うするんだ。
それが自分の役目。
テーブルにその封筒をそっと置くと、ひとつ深呼吸して、僕は玄関に向かった。
出来るだけ何も考えないようにして靴を履き、下駄箱の上を何気なく見る。
その瞬間、僕の体が一瞬止まった。
―――まさか、そんなはずはない。嘘だろ。
僕はそのまま鍵も掛けずに部屋を飛び出した。
途中階段で何度も転びそうになりながらもとにかく走った。
人間の体はとにかく重い。この体で生きていく人間の苦労を改めて思いながら、僕は上着を脱ぎ棄てた。
ユイが出て行って何分が過ぎただろう。まだ居てくれるだろうか。まだ、この近くにいてくれるだろうか。
神様、どうか……。
ふっと体が軽くなるのを感じた。
時間が来たのだと分かった。僕は駅へ向かう下り階段の上でためらわずに足を踏切り大きくジャンプした。
バサリと懐かしい音がして、光の粉が舞う。体は重力を感じさせず、軽々と宙を泳いだ。
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