解放【完】

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紙袋の中には、コンビニ袋が入っていて、僕の好きな物ばかりだった。 人付き合いが人一倍苦手な僕は、彼と彼の妹以外、友達と呼べる人は居なかった。近所付き合いは、挨拶を交わす程度で、あまり関わらないように、静かに暮らして来たし、正直、このまま一生、独り身なのかと思うと、心無しか、虚しいような、そんな気がしないわけでもなかった。 だからなのかもしれない。 たとえ、何処の誰かも分からない人からでも、こうして毎日、"お疲れ様"という手書きのメッセージカードと共に、僕の好きな食べ物を頂けて、不思議と恐怖を感じるどころか、嬉しさが込み上げて来たのは。 家に帰っても、当然誰も居なくて、"おかえり"と言ってくれる人は居ないけど、毎回仕事から帰ると、ドアノブにかけられている紙袋があって、それだけで、温かい気持ちになるんだよ。そして、自然と虚しさは減少するんだ。 「お汁粉と、コンポタに、肉まんまで。しかも、全部あったかい。って事は、これくれた人、さっきまでいたのかな?」 缶のお汁粉にコンポタ、そして大好きな肉まんはどれも温かく、買ったばかりなのだと気付く。
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