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彼の死を望んでいたわけじゃない。いや、望むはずも無い。望んでいた事があるのは、自らの死だ。彼への行き場のない想いを、何処にぶつけたらいいのか分からず、ずっと辛くてどうしようもなかったから。だが結局、こうして生きて、彼が亡くなるまで"命"を手放せなかった。
そして今も、彼の亡き今も、生きている。
彼が生きていた頃、僕は本気で思っていた。彼が居なければ、生きていけないと。けれど実際はどうだ?こうして今もなお、普通に息をして、普通に仕事に行っている。何も変わらない。彼が生きていた頃も、亡くなった後も。ただ変わったのは、傍に、彼は居ないという事。それだけだった。
《次は、◯、◯…》
車内のアナウンス。僕の降りる駅が近付いた。
電車が止まり、ドアが開く。乗客達は一斉に降り、階段を上る。早足で上がっていく者、携帯に目を向けながら、ゆっくり上がっていく者、それぞれが向かうべき場所へと向かって行く。
僕は眼鏡を直すと、イヤホンを外し、携帯をコートのポケットにしまって改札を通った。
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