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ほどなくしてゼミ室のドアが叩かれる。
「どうぞ。」
「失礼します!」
勢いよく開いたドアから現れたのは、予想に反して元気いっぱいの女子学生だった。
破天荒な言動からてっきり血気盛んな若者をイメージしていた私が内心面食らっていると、女子学生の方もしばしぽかんと私を見つめ返していたが、じきに部屋中の本や資料をきょろきょろ見回し始めた。
三つ編みにした赤っぽい茶髪と、大きな丸い瞳が強い印象を与えている。大きな瞳と落ち着かなげな様子は、まるでリスそのものだった。しげしげと観察していると、女子学生ははっと我に返り、姿勢を正した。
「私、先ほど学務の方に連絡していただいた者で……
文学部2年の会(あい)あかねと申します。この度は、ぜひ教授のもとで学ばせていただきたいと思いやって来ました!」
アイと名乗る学生は、そのまま首がもげんばかりの勢いで直角の礼を決める。
「ああわかった、わかったから…とりあえずそこに座りなさい。」
「失礼します!!」
デスク横の椅子に着席をうながすと、学生はおとなしく座り、ふたたび落ち着かなげに辺りを見回し始める。
さっきから何なんだ?この妙なテンションは。
いやいや、たかが学生相手に気圧されるわけにはいかない。私はデスクの上でわざと悠然と手を組んでみせた。
「私のゼミに興味があると聞いているが…私の専攻は知ってるのか?」
「もちろんです!歴史に重点を置いた宝石学と存じ上げております。」
「うん…まあ、それは間違っていないけれど…。」
まあ確かにその通りだ。単に『宝石学』だけではない回答はやや好感が持てる。だが、それだけではまだ足りない。
「さっきもさんざん学務で聞かされてきたとは思うが…うちの大学で2年生はゼミに入れない。それも知った上で来てる、ということで良いだろうか?」
女子学生はここで初めて、やや物怖じしたような表情を見せた。
「は…はい。でも、教授の分野は専門性が高すぎて…独学には限界があるんです。だから、2年のうちから少しの間でも長く、第一人者である教授から学びたいと思っています。」
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