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もう十年以上前の話だが、人間を食っているところを人間に見られた。
すぐさまこいつも殺さなければ。そう思った直後、そいつ…人間のオスガキは聞いてきたんだ。『それって美味しい?』と。
美味いと答えると、何と今度は、自分も食べたいと口走った。
その時俺は、人間の共食い云々よりも、自分の食い扶持が減るのが嫌で拒否し、食いたければ自分で狩れとガキに言った。
「だったら、人間の狩り方を教えてよ」
同族を狩りたいなんてとんでもないことを言う奴だ。けれど、そんなことを訴えてくるガキに興味が湧き、俺はそいつに人間の狩り方を教えることにした。
その日から十数年。
ガキは大人になり、狩りの腕も一端になった。
人間だが、俺がやるように人間を襲い、当たり前に食らう。そしてついに、ガキの狩りの腕前は俺を超えた。
その瞬間だ。ガキが俺に刃を向けてきたのは。
反撃したがもう太刀打ちできず、瀕死の身となった俺は、このまま死を待つかとどめを刺されるかという状態だ。
ちくしょう。こんなことになるなら、狩りの仕方なんて教えるんじゃなかった。
というか、元々このつもりだったのか?
人を殺す現場を見た自分が殺されないよう、何とか言い繕ってその場を凌ぎ、自らの腕を磨いて、俺という人食いの化け物を倒す。
あの時そこまで考えていたのなら、こいつはとんだ食わせものだったという訳だ。
自分を殺す敵を育ててしまった。それを悔いていた俺にガキが近寄る。
ああ、とどめを刺すのか。そう思った瞬間、ガキが俺の顔を覗き込んだ。
「狩りの仕方、教えてくれてありがとう。アンタはどんな味かなぁ」
聞いた瞬間に悟ったよ。俺なんか比じゃない。こいつは正真正銘の化け物だ、と。
同族を殺すことにも食うことにもためらいはなく、俺という、いわば育ての親も同然の存在も平気で手にかける。しかも食うつもり満々だ。けれど俺に対する感謝はちゃんとある。
どうやら俺は、化け物中の化け物に狩りを教えちまったようだ。
いつか人間に退治される日が来るだろうとは思っていたけれど、その相手が『教え子』とはな。
まぁ、ここまで来たらもうジタバタする気はないが、心残りが一つ。こいつがこの先、どこまでとんでもない化け物になるのか、それをもうしばらく見ていたかった。
教え子…完
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