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1、背が小さい中学男子
井上 蒼は、13歳、中学一年だった。両親と生意気な小学校5年生の妹が一人いるごく普通の家庭の長男だ。
母は、フルタイムで働いていて父も勿論働いている。
蒼は他の子供より飛び抜けて勉強が出来た。中学受験も親に勧められたが、地元の友達と同じ中学に行きたかった。だから、意思を通した。受験は大学でいい。
敷かれたレールの上を歩くよりも、友達と一緒に居たかった。
蒼には一つのコンプレックスがあった。
クラスで一番背が小さいのだ。まだ、150㎝にもならない。声も変わらない。妹の彩とそっくりな声だ。
妹の彩と言えば一週間ほど前から具合が悪そうな感じだ。なのに、父も母も病院にさえ連れて行かない。彩が具合が悪くなった日の夕飯に何故か「お赤飯」が出て来た。
蒼が「どうして、お赤飯なの?」と母に訊いたら母は何も言わず微笑を浮かべた。父は「俺には訊くな!」という態度でスマホから目を離さなかった。
蒼が「なんで?なんで?」としつこく母に訊くと彩が「お兄ちゃんのバカ!」と怒鳴って席を立って自分の部屋に入ってしまった。
蒼は、さっぱり訳が分からなかった。
母は、彩を追いかけて二階の彩の部屋に行ってしまった。父がボソッと「彩が戻ってきたら赤飯の事は蒸し返すんじゃない。黙って食えばいいんだ」と蒼に言った。ついでに蒼の顔を見て呟いた。
「お前は本当に子供だな……」
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