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カルサイト
その後、沙菜と二回ほどビーチで過ごした。バイトと引越の準備に追われ。相変わらず夕方の2時間程度しか会えなかったが、あれから沙菜の家に行くことは無かった。
宮古島を発つ前日、ビーチで絵を描き終えた沙菜が、二人で並んで海を眺めている絵を円柱系の黒いケースに丸めて入れて渡してくれた。
バッグから小さな紫色の巾着袋を取り出して紐を解き始めた。「これ、元通りに結べないよね?」「もう、結ぶことないから大丈夫かなー。」袋から二つの親指大に乳白色の石を取り出した。「この石はカルサイトと言って、珊瑚が化石になったものなの。オバアから貰ったんだけどね。この石には男石と女石があって、お互いが惹かれあうの。ほら、離そうとすると嫌がって、オレンジ色っぽく光るし温かくなるの。でも、遠すぎると光も温かさもなくなる。」「遠すぎるってどれくらい?」「試したことないし、持つ人を選ぶみたいだから、人によって違うんじゃないかなぁ。」「何年経っても、ずっと惹かれ合うんだって。」一つを手に持って「はい、男石は達也さん!」僕の左手を取って掌に置いた。温かい、熱を帯びている。乳白色の石は薄くオレンジ色に光っているように見える。「女石は私。」「いつか、また逢えるように持っていて欲しいの。すぐじゃなくても全然いいから、何年先でも。もし、私が長生き出来なくても…。」「大丈夫!すぐにまた来るから!来年就活が終わったら、バイト頑張って夏に来るから!」沙菜を抱きしめた。泣いている沙菜の嗚咽が心に突き刺さっていく。「うん、待ってる。明日、送れなくてごめんなさい。」「帰っても毎日連絡するからね。」日没とともに僕達の逢瀬は終わりを告げた。
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