よめ、よめ、よめ。

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 ***  その日の部活動で、彼女に変なところは見られなかった。  夏にある公募の新人賞の締め切りがあってね。みんなでそれに向けて、一生懸命小説を書いてた時だった。  ちなみにその新人賞、長編の賞と短編の賞があって……私はまだ長編頑張れる自信なかったから、短編の賞にだけ応募することにしてた。で、カオちゃんは長編の賞を頑張ってたのね。  長編の賞は、十万文字くらいないと応募できないの。十万文字って結構な文字数でしょ?何年も小説書いてる先輩たちも、締め切りに間に合わせようとひーひー言ってたな。なお、文芸部の部長も去年一次突破どまりだったみたい。他の先輩はみんな一次落ち。ものすごく頑張って十万文字仕上げても一次突破できないって、本当にシビアな世界なんだなって思うよ。  なお、短編の賞の方は、五千文字くらいあれば応募できるんだけど……私は結構、それでも苦労しちゃって。こっちは逆に二万文字以下で収めないといけないから、その文字数にきちんと起承転結いれて話をまとめるのが難しくって。  結果、カオちゃんも私も、違う理由で魂が抜けちゃってた。カオちゃんの場合はまずプロットで悩んでたみたい。 「今回は、ホラーで挑もうと思ってるの」  部活の帰り道。私と一緒に駅に向かいながら、彼女は首を垂れてたな。 「デスゲーム系にしようかなって。前から挑戦しようと思ってたのよね」 「へえ、デスゲームって昔からホラーの王道だよね。面白そう」 「でも、いきなり煮え詰まっちゃって」  彼女は首を横に振ってこう言った。 「肝心の……ゲーム内容がちっとも思いつかない……」 「おーのー……」  それはかなり致命的なやつ、と私も天を仰いじゃった。スリリングな推理とか駆け引きとかやらせてみたいけど、ああいうのってそれが実現できるゲームを考えなきゃいけなくて大変なんだよね。  なんか、少しSFチックな世界観だから、ファンタジー要素が入るゲームでもいいみたいなんだけど……そう思ったらますます考え付かなくなっちゃったって。  私は短編だからまだまだ時間があるけど、カオちゃんは長編だからいい加減プロット終わらせて書き始めないとまずいところまで来てる。だから私は言ったの。 「どうしても思いつかなかったら、他の人の小説読んでインプットしてみたら?ネタをそのままパクるのは駄目だけど、何か思いつくきかっけになるかもよ?」  アドバイスとしては、かなり適格で、ありきたりなものだったと思う。  丁度私達が駅に向かう道には、小さな本屋さんが一軒ある。ナカゾノ書店っていう昔からあるお店ね。漫画はちょっとしかないんだけど、文庫本は時々レアなものが見つかるお店だったんだ。 「ん、まあそれが一番かも」  彼女は頷いて、丁度本屋さんの前を通りかかって言ったのね。 「あたし、ここのお店寄ってから帰るわ。マキちゃんは?」 「ごめん、今日急いで帰りたいんだ……テクノポップの生放送あって」 「わかった。じゃあ、また明日ね」 「うん!またねーカオちゃん」  私達は、本屋さんの前で別れた。  正直、今はそれをすっごく後悔してるの。だって一緒に行けば、止められたかもしれない。  そう、あの本に――カオちゃんが出会ってしまうのを。
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