未経験歓迎!高収入!アットホームな職場です!

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「あぁっ!いけないですよっ!!」 「えぇー?何でですかぁ?」  デスゲーム製作会社として創業30年、デスナックル株式会社デスゲーム環境管理部人選課で働くクロダと申します。我が社はデスゲームを設計・開催し、その様子を有料で配信することで利益をだしています。私の仕事はデスゲームの参加者候補を独自のデータベースから選別することです。新卒で入社してから早20年。気付けば一人でこの課を支えるベテランになってしまいました。  そして創業30周年になる今年度、我が社は新社長の意向で久々に新人を大量に迎えることになりました。裏業界で大々的に「未経験歓迎!高時給!」と打ち出し集められた新人の方々は一カ月の研修を終え、先月ようやく各部署への配属が決まりました。とはいえ私の課の新人は一人だけですが。  今は新人のクロカワくんが私に代わって我が社自慢のデスゲーム参加者候補データベースから、参加者名簿を作成している最中です。 「とびきり頭の悪そうな人ばかりじゃないですか!」 「えぇー?でも、偏差値高い人ばかり入れたら簡単にクリアできちゃうじゃないですかぁ」 「知能指数の高い人と平均的な人、低い人の比率は1:6:3程度が基本です!頭が悪い人だけ集めたら、デスゲーム自体がスムーズに進まないんですよ!そもそもルールを上手く理解してもらえないのですから!」 「じゃあ理解してもらえるくらいの難易度にすればいいじゃないですかぁ」  まったく、この新人、口が減らないようです。経験もない癖にすぐに口答えをします。まるで私を論破してやったと言わんばかりに自信満々の顔ですね。仕事の効率の悪さのことなんて、そんなこと働き始めた時からこちらだって気付いているのですよ。しかし予算や人員、労働時間のことを考えたら到底無理だと、働き始めて一年ぐらいで悟っていくわけです。そうして現実を知って、いかに省エネで働けるかを模索していくものなのですよ、新人くん。 「近頃の視聴者様はそんな単純な難易度のデスゲームをお望みではないのですよ。ただ殺し合うだけでしたり、まるでSA〇UKEのようなフィジカルありきのものは見飽きてしまっていますから」 「へー。面倒くさいですねぇ」 「そう、だからこそ私たちの人選も重要なわけです。さぁ、もう一度初めから人選し直してみましょう」 「えぇー?最初からですかぁ?」 「そうですよ。あ、言っておきますが、ここではハラスメントなんて概念はないですので、お気をつけてくださいね」 「えぇ―?ブラックだぁ!令和なのに!時代遅れだぁ!」 「募集要項に記載がありましたよ。嫌なら――」 「嫌なら?」 「いえ、嫌なら、アドバイスはいくらでもしますので、なんなりとおっしゃってくださいね。新人の間にたくさん質問して学んでください」 「はーい」  危ない危ない。数年前にお試しで雇った若いバイトくんに「嫌なら帰ってよろしいですよ」と言ったら本当に帰って二度と戻ってくることはなかったではありませんか。同じ過ちをするところでした。近頃の新人くんは忍耐力がないもので……あぁいけない。ハラスメントの概念がないものですから、こうして老害のようなことばかり思わず口にしてしまいそうです。この業界も人員不足が深刻ですから、気を付けなくては。間延びした話し方が気に食わないことも、黙っておかないといけませんね。 「この人はどうですかぁ?」 「むぅ……経歴は問題ないですが、体重がよろしくないですね。20キロ程オーバーしています」 「えぇ?デスゲームに体重制限なんてあるんですかぁ?」 「今回から導入された拷問器具ですが、デスゲーム施設部が技巧を凝らした結果、少し繊細な出来になってしまいまして……あまり脂肪が多い方ですと、こまぎりにする際に機械に詰まってしまって見応えがよろしくないのですよ……洗うのも一苦労ですし」 「うへぇ……分かりましたぁ……」  新人くんは想像力が豊かなようです。私の簡潔な説明を聞いただけでも嫌そうな顔をしています。ううむ、本番は一緒に観劇する予定なのですが、大丈夫でしょうかねぇ。 「うーん、頭の良さだけじゃなくて老若男女のバランスも考えないとだし……」  新人くんはブツブツと独り言を言いながらデスゲームの参加者候補を選んでいますが、顔つきは真剣そのものです。 「今回は10人ですけど、決まったらこの人たちどうやって連れてくるんですかぁ?」 「……研修資料を読み込んでいないようですね」 「あは、すみませぇん」 「やれやれ……専門の誘拐班が別部署にあるのですよ。だからクロカワくんが心配する必要はないです。集中して人を選んでくださいね」 「10人も一気に一般の人が行方不明になっても、騒ぎにならないもんなんですねぇ」 「そこはプロですから」  日本の闇そのものの業界ですから、地図にも載っていない場所で開催されているデスゲームの存在を知っているのはほんの一部の人間しかいません。クライアントは日常生活に飽き、刺激を求めこの世界へと辿り着いた酔狂な金持ち共です。前までは様々な武器と凝った会場を用意したシンプルな殺し合いのデスゲームがスポーツ観戦のように楽しまれていましたが、今は知的な戦略性もありつつ、より醜い人間性の現れる心理ゲームを用いながらグロテスクに死んでいくデスゲームの需要が高まっていて、こちらも頭を使わないといけなくて困っていたりします。 「どういう人達だと盛り上がるんですかねぇ?」 「そうですね……現在のデスゲーム業界はギミックは凝ったもの、ゲームは複雑なものが好まれていますが、人選は昔ながらのものが引き続き好まれているものですよ」 「例えば?」 「パニックになって真っ先にゲームの餌食になるお馬鹿、一見モブに見えて皆を引っ張ってくれる実は正義感の強い主人公タイプ、やたら冷静で実はデスゲームの経験者、知的ですがひねくれてて後半にようやく協力するメガネ、とにかく陽気な者、ここぞという時に男気を出すヤンキー、異常な状況でも純粋を貫くヒロインタイプ、シンプルに腹黒い女……最近はここぞとばかりに配信を始める配信者も人気ですね!」 「えーっと……今ので9人ですね!よし、後一人!」 「あぁ、しまった!話し過ぎました!」 「へへ、クロダさん意外とチョロいですねぇ」  ちゃっかり私が上げた人たちの特徴をメモしていたクロカワさんは一気に名簿作成の目星がついたようです。データベースを閲覧するスピードの速いこと。ちなみにこのデータベースには日本国民の全詳細が載っていたりします。生年月日を始め家族構成、経歴、性格や運動能力、生まれてから今までの行いまでの全てを把握しています……出典はもちろんトップシークレットですよ。 「はぁ……では、私は会議があるので一時間後に戻ります。ついでに休憩に出かけるのでそれまでに出来たところまで報告してくださいね」 「はーい」  いつもなら家から参加するリモート会議も、今回はクロカワさんの研修為に出社したので会社の個別スペースに移動しなくてはならなくて面倒です。しかしその後は近所の定食屋の日替わりランチが大好きなアジフライ定食なのでプラスマイナスゼロといったところですかね。 「お疲れ様ですー」  既にリモート会議にはデスゲームロケ班、誘拐班、ルール製作部、演出・脚本部、施設部、私を含めた環境管理部の管理職の面々が勢ぞろいしていました。 「やぁ皆さん既にお集まりのようで」  そして少し経って最近就任したばかりの新社長、ニジサキさんが画面に映り、会議はスタートします。今日の議題は来月に開催予定のデスゲームについてです。 「ではロケ班アオシマから進捗の報告です。演出・脚本部からSF映画のような近未来の舞台の要望がありましたが、提示された予算では厳しく……」 「じゃあまた古びた地下?」 「いえ、地下のような所に閉じ込められてやるのはもう見飽きたと――」 「ちょっと待った!困るよ!こっちはもう近未来をイメージして曲線美を協調したスタイリッシュな拷問器具を作ったってのに!」  開始早々なにやらトラブルが起きたようです。私に「この美術館にありそうな前衛的でかっこいい拷問器具を見てみろ!」と意気揚々と紹介してくれた施設部の大ベテラン、アカガイさんが画面から飛び出て来そうな勢いで抗議しています。  実は冬の創業記念日に開催予定の30周年記念デスゲームに予算を割き過ぎたせいで今回のデスゲームの予算は少ないのですが、新社長がいる手前、文句の言い辛いアオシマさんには同情しかできません。 「申し訳ないんだけれど、山奥の古風な村を買い取ったから……」 「そんな和の雰囲気があるところにこのAI搭載全自動拷問器具『ナブルンデスベータ』を配置するっていうのか⁉違和感がありすぎるだろ!」 「まぁある意味斬新なんじゃないんですか?今までやったことないですし。それに古民家とか残ってるでしょう?きっと雰囲気があるし、ホラーゲームみたいでいいんじゃないんですかぁ?」  面倒くさそうに演出・脚本部のベテラン、ハイムラさんは言っています。急な仕様の変更にも慣れたもので、既に諦めの境地にいるようです。 「それよりクロダさん、人選は終わったんですか?さっさとさらいたいんですけど」 「納期まだでしょコンノさん、それにもう期待の新人、クロカワさんが今着々と進めていますよ」 「おぉ!そうか、新人は期待できそうか!」  しまった。コンノさんの機嫌を取るためについ調子の良いことを言ってしまいました。新社長の存在がすっかり頭から抜けておりました。 「はい、もちろん。それに私が最終チェックしますので、ご安心を」 「それでは面白味がないでしゃないか。せっかくだから、期待の新人くんのオーダー通りの人選でデスゲームをしようじゃないか!」 「……え?」  おやおや、適当にごまかそうとしたら雲行きが怪しくなってきました。 「これからは我が社も新しい風を吹かせていきたいからな。新人の意見もふんだんに取り入れよう!」 「……そう、ですね。ハハッ」  私は何とか気を保って笑顔で返事をしました。さて大変なことになりました。新社長の期待を我が人選課が背負ってしまいました。どうなることやら。 「――名簿は出来ましたか?」 「はいっ!!」 「元気がよろしいことで」  休憩を終え、アジフライ定食で持ち直した私はクロカワさんの元へ戻りましたが、やけに機嫌が良いようです。何か良いことがあったんでしょうか。 「めっちゃ自信ありますよぉ!」 「それはそれは。新社長のニジサキさんがあなたのことを期待しているそうですよ」 「マジっすかぁ⁉」 「……私の意見を入れずに、クロカワさんの意見を通してあげろというお達しがありましてね……いかがしますか?」 「えぇ⁉俺、初めてですよ⁉」 「そうですよねぇ。やはり――」 「好きにさせてくれるなんて、良い会社ですねぇ!」 「えぇ?」  近頃の若者は責任を負いたくないと思っていましたが違ったようです。その目は恐れを知らず、真っすぐでキラキラと輝いていました。そういえば新社長も年下で同じように目が輝いていました。若いって良いですねぇ。ただ、何かあった時の責任は新社長に取ってもらうという言質を取っておくべきでした。 「――さて、今日は待ちに待った本番ですね。心の準備は出来ていますか?」 「は、はい!」  さすがのクロカワさんも緊張しているようです。課にある一番大きなモニターに、デスゲームを中継しているカメラの映像を映して一緒にモニタリングをすることにしました。リラックスできるように今回はポップコーンとジュース付きです。 『――やぁ、目覚めたかニャー?』  クロカワさんによって選ばれた10人の老若男女が広い古民家に居間に倒れている。全員の目が覚め、辺りを見回すと、部屋の奥にあった曲線美に凝った前衛的でスタイリッシュなデザインのAI搭載全自動拷問器具『ナブルンデスベータ』に付けられたモニターに映るネズミの可愛らしいキャラクターが話し出した……それっぽく説明してみましたが、何だか気の抜ける単語が多いですね。 「なんでネズミなのに語尾がニャーなんです?」 「前のデータの使い回しが残ってたんでしょうね。シンプルなミスですね」 「えぇー?やば。というかなんでこんなカワイイキャラクターなんです?」 「デスゲームの緊張感と、可愛らしいキャラクターで現場の雰囲気に緩急がつくので定番なんですよ」 「へー」 「クロカワさんは製作会社に就職したのに興味がなさ過ぎませんか?よく就職出来ましたねぇ」 「というかネコじゃダメだったんですかぁ?」 「ネコはあまりにも……その、某ファミレスにあるロボット臭がひどくて……ほら、ネズミなら世界的にも人気のキャラクターがそれなりにいるでしょう?」 「あぁなるほど。あれ?クロダさん!画面真っ暗!」 「おや、どうしたんですかねぇ」  近づいてみると、慌てる他の部署の人たちの声がスピーカーから聞こえ始めました。他の部署で現場に居ない人たちも私たちと同じようにモニタリングをしながら通話はしているのです。 「どうやら、現場が停電したみたいですね。『ナブルンデスベータ』くん、消費電力が凄そうですからねぇ」 「えぇー⁉前途多難すぎぃっ!!この会社ヤバいっすねぇ!!」  クロカワさんは会社の一大事だというのに笑いが止まらないようです。新人さんのツボはおじさんには分かりかねます……というよりも。 「クロカワさん、目の前のマイク、オンなので他部署の皆さんに聞こえてます」 「えぇえええ⁉ちょ、先に言ってくださいよぉ!!」 「あ、それよりクロカワさん、停電、回復したみたいです……ってえぇ⁉」  今度は私が驚く番でした。停電から戻った現場には血まみれの死体が二つ転がっていました。残った人間からは悲鳴があがり、そして返り血を浴びながらも再起動をする『ナブルンデスベータ』くんの姿が……他部署からも困惑の声が上がっている中で、クロカワさんは興奮気味のようです。 「わっ!一気に展開が進みましたよ!」 「そうですねぇ。ええと、殺されたのは……」 「知的ひねくれメガネと男気ヤンキーですね!あの短い時間で殺しておいた方が良い頭脳派とフィジカルオバケを先に殺すなんて、やっぱり俺の見る目があったみたいですね!」 「ほぅ?」  クロカワさんは私が例に出した9人のタイプに沿って人選をしたことまでは教えてくれましたが、最後の一人に関しては当日まで内緒だと言って教えてくれていませんでした。私は別にサプライズ好きではないのですが。  クロカワさんの話を聞きつつモニターを確認してみると、デスゲーム開始早々、二名を殺害したのはクロカワさんがサプライズで加えた最後の一人でした。手に持っている刃物のようなものからは血が滴り落ちています。 「最近は真っすぐな主人公タイプよりダークヒーローとか闇落ち主人公もウケが良いと思ったんです!悲しい過去を持つ、めちゃくちゃ殺人願望の強い子を混ぜてみました!」 「ほぅ……しかしもう、『ナブルンデスベータ』くんのルール説明を無視して現場はパニック状態ですね。あぁ……皆さん散り散りになって逃げてしまいました。これじゃあデスゲームというより殺人鬼から逃げるホラーゲームですねぇ」  私はもう一台並べて置いてある隣のモニターを確認しました。そこには今回のデスゲームの視聴者の数やコメントでの反応が映されています。 「興奮したり困惑している方が多いですね。まぁ事前に伝えていた設定とは大きく違っていますからね。『和室と機械の雰囲気あってなさ過ぎww』『停電は事故?わざと?』『放送事故じゃね?先が気になるわ』……反応は上々ですかねぇ?」 「おい!人選課ぁ!俺の『ナブルンデスベータ』が蚊帳の外じゃねぇか!!」  コメントを確認していたところ、スピーカーから大声で響き渡ったのは施設部のアカガイさんからの苦情でした。初めてのデスゲームのモニタリングに興奮しているのか、クロカワさんはマイクに向かって大声で答えました。 「でもネズミなのにニャーとか言うし!電力足りなくてて動かなかったじゃないですかぁ!!」  口が減らないのは私に対してだけにしておいて欲しかったです。私は今回のモニタリングがただで終わる気配を感じず、ぎゃあぎゃあと言い合うベテランと新人の声を聞きながら、始末書のフォーマットがどこのファイルに格納されていたかを思い出す作業を始めていました。 「てかなんで凶器が置いてあるんです⁉」 「確かに、クロカワさんの言う通り、どうしてこのダークヒーローくんは凶器を持っていたのでしょう?ゲームで失敗した人やルールを破った人が『ナブルンデスベータ』くんによって拷問を受ける話ではなかったですか?参加者同士が殺し合う予定ではなかったはず……」 「あー……『ナブルンデスベータ』に搭載予定の武器を運ぶ時に、どうやら新人のアオタさんが現場に置き忘れたみたいです……それが今凶器になって……」  私たちの疑問に答えてくれたのはロケ班のアオシマさんでした。申し訳なさそうに答えています。 「「これだから新人はよぉお!!」」  クロカワさんとアカガイさんは先ほどから興奮しきっていて暴言が止まりません。アカガイさんはともかくクロカワさん、あなたも新人でしょうに。私はようやく始末書の場所を思い出したところです。 「アカガイもなぁ、新人のアカムラくんに良いところ見せようとしてはりきってこれだもんなぁ」 「聞こえてんぞコラァ!!」  ボソッと聞こえたのは演出・脚本部のベテラン、ハイムラさんの愚痴でした。なるほど『ナブルンデスベータ』のトラブルはアカガイさんが気合を入れ過ぎたせいのようです。緩い性格のハイムラさんと熱血漢のアカガイさんは水と油の相性なので諍いは見慣れたものですが、今はそれどころではないですね。モニターではダークヒーローくんが残りのデスゲーム参加者を追い詰めています。追加で二人殺されたようです。あの古民家は民宿くらいの大きさで逃げられないよう出口は閉ざされているので、相当巻きで終わりそうな気配がしています。 「そういえば社長はどうなされたんです?」 「ニジサキ社長なら推し活とやらで今日は欠席です」 「「「はぁ⁉」」」  突如現れた社長秘書のシロセさんの言葉にベテラン、新人関係なく全ての従業員が声をあげました。新社長、自由過ぎやしませんかねぇ。私は始末書ではなく退職届を書こうかと思い始めました。  シロセさんの報告のおかげで皆が冷静さを取り戻し、全ての従業員のヘイトが新社長に向くことになりまして、その後は争うこともなく全員静かにモニターを眺めていました。想像通りダークヒーローくんはたった数時間で残りの参加者を殺害し、今回のデスゲームは当初の予定より巻きに巻いて終わりました。 ――翌日。  結局、企画の時点では「知的で緻密なギミックのあるデスゲーム」だったはずの昨日のデスゲームは、「逃げ場のない山奥の古民家での猟奇殺人鬼によるホラームービー」と化しました。視聴者様たちはお冠かと思いきや、久しぶりにシンプルな殺しが見れて楽しかったと何故か好評でした。競合他社も煮詰まってきたのか、奇をてらったデスゲームが増えていましたから、一周回って単純なものがウケたのかもしれません。 「おはようございます」  出社して挨拶をしてみましたが返事がありません。クロカワさんはこの課に配属されてから約1カ月、私より遅く出社したことはなかったのですが。  自席のPCを立ち上げてメールを確認してみると、クロカワさんから一通メールが届いていました。もしかして体調不良でしょうか。メールを開いてみると――。 『クロダさんへ、昨日ので満足したので退職します!お世話になりました!』  メールの文章が、あの間延びした話し方で容易に脳内再生され、そして私は叫びました。 「これだから新人はよぉお!!」
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