物質世界のMonster

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今日一日、ずっと鍛錬場に篭っていた。何故なら、もう料理を準備する必要がないからだ。王は玉座から動かない。兵士たちも持ち場から動かない。コックたちもキッチンにいるだけで、何もしない。何も作らない。皆プログラムされた存在であるからだ。 ――本当に、そうなのか? 私はコックたちと協力して、全力でコンテストに参加して、優勝した。 あれはプログラムだったのか? いや、あれはプログラムではないか。私の予想でしかないが、この物語が始まったのは今日からなのだ。だから、急にみんな、プログラムされ始めた。だから、優勝したあの時、試作品を作って、沢山改善していったあの時、優勝してみんなで喜んだあの時は、プログラムされたものではない。みんなの喜びも、プログラムされた喜びではない。 そう思うと、少し心が軽くなった。 実を言うと、鍛錬している間、ずっとそのことを考えていたのだ。優勝したみんなの喜びも、プログラムなのか?と。でもきっと違う。城のみんながおかしくなったのは今日から。物語が始まったのは今日からなのだ。 明日も私は鍛錬を続ける。まともに戦えるようになったら、西の祠へ出向こう。 次の日も、みんなの同じ言葉を繰り返すところは変わっていない。やはり、この世界はゲームの舞台なんだ。そう、思い知らされた。 起床は染み付いた4時30分。そこから洗顔をして歯を磨いて、読書をする。ここまではルーティーンだ。しかし私はもうキッチンに行く必要はない。6時から鍛錬場で剣の修行だ。教えてくれる人もいないから独学でしかないが、なんとなく昨日よりは上手くなっている気がする。この調子だと、1週間くらいで西の祠に行けそうではないだろうか。 「・・・ふぅ。」 鍛錬が終わり、一息ついた。 今日でこの世界がゲームの舞台だと気づいてから1週間とちょっとが経つ。一応、その間ずっと鍛錬した。明日には西の祠に向かうつもりでいる。 ――西の祠、本でしか読んだことがない。 それもそのはず。私は生まれた時からこのパルトビア城の城下町で暮らしており、外に出たことはほとんどない。大人になっても料理の経験を積むために城下町で修行していたから、他の町に行くのは食材を仕入れる時だけ。そんな私が、西の祠に。 まさか、そんな時が来るとは思わなかった。しかし私は主人公。私が倒さなければ、誰が倒すんだ。私が魔物を倒さなければ、城が攻め込まれてしまう。 そして――諸悪の根源を倒すことが出来れば、みんなも戻るかもしれない。みんなと楽しく会話出来る日々が帰ってくるかもしれない。それまでは、私が主人公。私が、私が導くんだ。この世界の運命を。
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