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「どうしましたか?」
「・・・いや、なんでもないよ。」
あの男・・・あの男こそが、「主人公」なのだ。
つまり、私は、NPC、ノンプレイヤーキャラクター。
それなのに、何故私は自我を持っていられている?
しかし、そんなことはどうでもいい。
私が、主人公ではない――?
何故だ、何故なんだ。
どう考えても、私が主人公に相応しいであろう。史上最年少で料理長になって、ずっと城にいるんだぞ。そんな私が、こんなぽっと出の男なんかに・・・
私を中心に、世界は動いている。
コンテストで優勝した時、私はそう思うほどだった。
しかし、そうではなかった。
この男こそが、主人公。この城を救った、勇者。
この世界は、この男のためにあるんだ。
私のためにある世界ではなかった。
憎い。憎い憎い憎い。
何故私ではないんだ。私ではダメだったのか。
私は苛立ちを隠さぬまま部屋に戻った。もはや、背中の痛みは気にならなかった。
今から、私が主人公になるにはどうすればいいか。
それはもう・・・あの男を、レベックを、殺す。
それしかないだろう。
しかし、ゲームでは主人公は死んでも生き返る。
ただ、それは魔物と戦う時だけだ。
ストーリー進行上で死んだら、それは確かな死。
私はそれを狙う。そのためなら・・・敵になることさえ、厭わない。
決行日は今日の夜。今日と明日、レベックはこの城に泊まると城の人間、NPCから聞いた。
だから、今日、あいつを殺す。
そして、私が主人公になる。
私のための世界にする。
私を、中心とした世界に――
気づくと、私の手は肥大化し、足も化け物のように大きくなっていた。頭には角が生え、尻尾も生えている。皮膚は動物の皮のように固くなり、まるで私の見た目は魔物そのものになった。
――この姿なら、あいつにも勝てるかもしれない。
私が倒せなかった魔獣を倒したあの男にも、この姿なら――!!
日は落ちた。決戦の時だ。
私はレベックが寝ているであろう部屋に行く。恐らくゲストルーム。どのゲストルームかは分からないが、もうそんなことはどうでもいい。手当たり次第にドアを開けて、確認する。
まず、1番右の部屋。開けてみると、そこには人の気配はなかった。続いて、右から2番目の部屋。
――明かりがついている。人がいるのだろう。
私はその扉を肥大化した手で勢いよく開ける。
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