物質世界のMonster

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「料理長ー!」 「・・・!」 「玉ねぎとしめじ、いっぱい持ってきましたー!」 「こっちは卵っす。」 上手くいっていたのか。良かった。 私はコックたちの頭をわしわしと撫でる。 「ちょ、料理長、くすぐったいですってー!」 「料理長、なんかいいことありました?」 バレてしまったか。 「実はね。あの有名なセッド地区の酪農家、コルネイユ様に気に入って貰えて、いくらでも提供する、と。」 「えー!!」 「あ、あのコルネイユ様にですか?!」 やはり皆驚くか。それほどコルネイユ様は気難しいで有名なのだ。 「ははは。だからもう、乳製品については心配しなくていいよ。」 「料理長ー!!」 1人のコックが私に抱きついてくる。おっと、と思いながらそのコックを支えてやる。 「私たちの料理長が、料理長で良かったです!」 「褒めすぎだって。」 「僕も、料理長のこと尊敬してます。」 「ははは・・・」 あまりに褒められすぎて照れてしまう。 私はそれを悟られないように話を変える。 「材料もほとんど集まったことだし、明日から早速調理に入ろうか。また、夕食の片付け後にキッチンに集まろう。」 「はーい!料理長!」 私たちの朝は早い。人によって準備の時間は違うから一概にとは言えないが、ほとんどの人が5時には起きている。朝食の準備をするためだ。そして5時30分にキッチンに集まり、朝食を作る。今日も同じだ。 「・・・寝坊している人が多いのかな?」 「違います料理長!なんだか具合の悪い人が多いみたいで・・・」 話を聞くとどうやら、喉の痛みや発熱を訴えるコックが10数人ほどいるとのことだ。感染症だったら危ない。ここは大事をとって休ませておこう。 「分かった。何か起こると悪いから、今日はとりあえずここにいるメンバーだけで食事を作ろう。コンテストに向けた調理は体調不良者が回復次第再開だ。」 「はい!」 きっと、忙しい一日になる。10数人がいるのといないのでは大きく差がある。品質は落ちないように、気をつけながら調理しよう。 「なんだって・・・?今日も9人休み?」 「はい・・・喉の痛みがまだ強いそうで、発熱が収まらない人もいるようです。」 「・・・これは・・・かなり厳しいぞ。」 「え?」 「いや、なんでもないよ。」 ここまでとは、予想外だ。 なんと、あれから3日経っても回復したのは少しだけ、まだ9人も休んでいるコックがいる。 次の日には治ると思っていたのだが、その予想は見事に外れてしまった。 そして最もは・・・コンテストに間に合わないかもしれないこと。コンテストまではあと2週間。まだ試作品は一つも出来ていない。普通ならばもう完成して、あとは改善策を練っているところだろう。私は絶対に、「全世界料理コンテスト優勝」の称号を手に入れたい。そして、パルトビア国の食材の凄さを伝えたい。私に今、出来ることはなんだろう。 焦りが私のことを支配する。注意力が散漫になる。いつも通りではいられなくなってしまう。 このままでは、仕事もままならない。 だめだ。しっかりしろルベン。仕事はしっかりしなければ。 しかし、そう思えば思うほど焦りは強くなるばかりで。 「ルベン、ちょっといいか?」 「ああ。なんだい?エリアス。」 兵士長エリアス。私の同期でこいつも史上最年少で兵士長となった凄い奴。 「今日の夕食、なんだかいつもと味が違う気がしたんだが・・・」 やはり、味が落ちていたのか。 焦りから私は仕事もままならなくなってしまっていたのか。だから焦りは禁物だと。ところがそう思えば思うほど焦ってしまうのだ。悪循環だ。もうどうしようもない。 「すまない。少し思うことがあってな・・・」 「なんだ?ルベンがそこまで思い詰めるなんて珍しい。いつも飄々とした感じなのにな。」 ははは、そうか?と私は笑う。あまりそんなことは言われないからだ。いや、実はみんな思っているけれども言わないだけかもしれない。 「実は・・・2週間後のコンテストに出す料理が間に合いそうになくてな。」 「なるほど・・・お前がずっと、優勝したがっていた大会だもんな。そりゃあ焦りも出るさ。」 「・・・だよな。」 「でもな、焦る必要はない。お前はお前なりにやればいいんだ。頼れるコックたちは、すぐそばに居るだろ?お前は凄い奴だ。2週間でも完成させられるさ。」 そうか。今、元気なコックたち。全然頼ることが出来ていなかった。連携が大事だと、自分でも言っていたのに。自分が1番出来ていなかったとはな・・・ 2週間でも完成させられる。エリアスのその言葉が胸に刺さる。ありがたい言葉だ。私は2週間では完成させられないと、半ば諦めていたのかもしれない。私ならば2週間でも完成させられる。そう信じて、もう一度頑張ろうじゃないか。
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