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結局、コックたちが全員回復したのはそのまた3日後だった。コンテストまではあと1週間と4日。やはり、試作品はまだ出来ていないが・・・間に合う。今はそう信じて頑張るしかない。
そして、夜がやってくる。片付けが終わり、ようやくコンテストに取り掛れる。
「今日からまた調理を再開します。次は風邪に気をつけるように。それでは、冷蔵庫から卵を・・・」
「キャーーー!!!」
「どうした!?」
「料理長・・・!」
1人のコックが叫びながら物置から出てくる。
何事かと私と他のコックたちは驚き、そのコックの方を見る。
「卵が・・・いっぱいあった卵が・・・!」
「まさか・・・」
「全部、腐っちゃいました・・・!」
卵が・・・腐る?
そんなことあるのか?卵はそう簡単に腐る食べ物ではないぞ?なぜ・・・?
しかし、周りのコックたちは「卵は常温にしていると腐る」という常識で動いている。
「しかも、卵をくれたニィニ地区のノエル様は、これだけあれば大丈夫だろうって、在庫のほとんどを私たちにくださったんです・・・だから、今からもう一度貰いに行くことも現実的には厳しいです!」
「てか、誰だよこんな所に置いてたの!」
1人のコックが声を荒らげる。それを引き金に周りもザワザワし出す。
「もう貰えないかもなんて・・・作れない、ってこと?」
「はぁ・・・ガチかよ。」
そんな中、1人が声を上げた。
「す、すみません・・・そこに置いてしまったの、私です・・・」
いつもはあまり話さない、控えめな性格のコックだった。しかし・・・
「なんで、あんな所に置いてたの?」
喧嘩になりそうな雰囲気なのと、卵を常温にしていても腐るはずがないという常識から、そのコックを庇うような言葉を発してしまう。
「待て。卵は常温にしているだけでは腐らないぞ?なぜ皆、そんなことを忘れている?」
しかし、私の話に聞く耳を持つ者は誰一人としていない。
「もう間に合わないよ・・・責任取れるの?」
「本当にすみません。」
ああ、ミスをしたコックを責めるような雰囲気になってしまった。このままでは、いい料理は作れない。私もなにか言わなければ・・・
「大丈夫。間に合います。あと1週間と4日、全力で頑張れば。」
頭を捻って、そんなフォローをする。
卵は腐ってしまった。ありえない話だが、それはもうしょうがない事だ。それならば、もう割り切って新しい方法を考えるしかないだろう。
「料理長、そんな根拠どこにあるんですか?」
「・・・っ。」
「料理長は、黙っていてください。」
言い返されてしまった。雰囲気は最悪。
さっきよりも一触即発な空気になり、誰も話し出さない。
「もういい。俺はこのコンテスト、参加しません。」
「・・・、そんな!」
「だってみんな、やる気ないじゃないですか。俺だけ頑張ったところでどうにもならないですよ。」
「やる気ないってなによ!私たちだって頑張ってるのに!」
「やる気のある奴がこんなミスする訳ないだろ!」
「だから!卵は常温にしているだけでは腐らないと言っているじゃないか!」
もう、私の言葉も届かない。ここで無駄に声をかけてしまったら、また逆鱗に触れるかもしれない。
そう思った私は、何も言葉を発することが出来ず、そのまま準備は進まないまま一日が終わってしまった。
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