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次の日の朝、5時30分キッチン集合。雰囲気はやはり最悪。もう、コンテストまでに元の雰囲気に戻ることはないのだろうか。本当にピンチだ。間に合わないかもしれない。
夜、片付けが終わると、コンテストに出すためのシチューグラタンを作るコック、つまりキッチンに残っていたコックは、僅か5人だった。
「人、減っちゃいましたね・・・」
「すまん。私の責任だ。」
本当に、私の責任だ。あそこで何か、いい言葉をかけられていれば、卵を常温で保存してしまったコックも責任を感じなかっただろうし、いや、卵は常温にしていても腐るはずがないんだが。今日参加する人数ももう少し多かったはずだ。私があそこでなにも声をかけられなかったから。
「料理長の責任じゃないです。私が・・・私が卵を腐らせちゃったから・・・!」
そういうとミスをしたコックは泣き出してしまった。
私は背中をさすってやる。かける言葉が見つからない。けれど、これだけは言える。
「大丈夫だ。私が必ず完成させてみせる。」
私は次の日の昼休み、パルトビア国では西に位置するメゴール地区へとやってきていた。
何故なら、ここも卵の生産が盛んだから。
元々ニィニ地区を選んだ理由は、常に城で使っている卵をそこで仕入れているから、話がつけやすいと思ったからであり、それ以外は他の地区のものを使っても構わなかった。
そこで、私が選んだのはメゴール地区。
この地区の卵はほとんどが赤卵。赤卵は白卵より値段が少々高い。それでも、私はメゴール地区の卵を使いたかった。
コンコン、と扉を叩く。
「突然すみません。パルトビア城料理長のルベンと申します。」
「あら・・・お城の方?」
「はい。実は――」
コンテストのこと、それに間に合わないかもしれないこと、それらを話すとなんと快く卵をくださった。しかし、今は出荷したばかりで少ししかない、とのことだったので、もらったのは20個だけ。この卵でなんとか、いや、絶対に私は完成させてみせる。
その日の夜、キッチンに集まってコンテスト料理を作るコックは少し増えて7人だった。それでも以前よりはずっと少ない。
「卵は新しく仕入れてきました。絶対に間に合わせます。」
「料理長・・・すみません。本当にありがとうございます。」
ミスをしてしまったコックが感謝を伝えてくれる。
いいんだ。誰にでもミスはある、と私はフォローして早速調理に入る。
「パンのくり抜き、こんな感じで大丈夫ですかね?」
「良いね。これくらいの大きさならたっぷり中身も入るし、これくらいでいこう。」
「料理長ー!シチューの味、これくらいで良いでしょうか?」
「うん。薄すぎず濃すぎず、良いじゃないか。」
7人。その人数でも私たちは頑張った。
なんとかその日のうちに作り上げることが出来たので、その場にいたコックで試食してみる。
「・・・!美味しい!」
「パンが器になってるのが見た目的にも面白いし、何より上に乗っている卵がいい味出してますね。」
よかった。高評価だ。
よし。このままこれを改良していこう。そしたら間に合う、と思う。
「それじゃあ今日のところはこれで解散で。皆、集まってくれてありがとう。」
そう言って私はコックたちを帰らせる。
しかし私はキッチンに残る。試してみたいことがあるからだ。
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