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朝はいつも通り4時30分に起床。今日はコンテスト翌日、9月29日。
顔を洗って歯を磨いて、読書をする。それが私のルーティーン。しかし今日はそんなルーティーンも意識して行わないと出来ないほど、昨日の記憶が思い出されていた。ああ。優勝したんだ。私は。1晩明けてようやく実感が湧いてきた。
ところが、何故か喉に違和感がある。痛い、とまでは行かないが、張り付いている感覚がある。
風邪か?
とにかく、他のコックたちに移してはいないか、確認するためにも早くキッチンに行こう。
「皆、おはよう。昨日の今日で大変だとは思うが――今日も頑張ろう。そして、体調不良の者は居ないか?私は少々のどに違和感がある。体調不良の者がいたら、すぐに私に報告するように。」
「・・・」
「・・・え?」
コックたちの返事がない。
いつもならば、「はい!料理長!」と元気よく挨拶してくれるのに、だ。
「皆、私の話を聞いてくれてはいたか?」
「・・・」
問いかけるが、やはり返答はない。
「返事をしてくれ・・・」
「・・・」
懇願しても、返事は来ない。
「ははは、もしかして、昨日のパーティーではしゃぎすぎて声が出ないのか?」
そう言って私は1人のコックの肩に手を置く。
「料理長は、この部屋の奥にいますよ。」
「・・・え?」
料理長は、この部屋の奥に?
料理長は私だ。私はここにいるぞ。というか、話しかけているぞ。何を言っているんだ?
「ちょ、ちょっと君も、何か言ってくれないか?」
また、他のコックの肩に手を置く。
「料理長は、この部屋の奥にいますよ。」
怖い。
もしかして、ドッキリかなにかか?
他のコックにも話しかけてみる。
「料理長は、この部屋の奥にいますよ。」
「料理長は、この部屋の奥にいますよ。」
「料理長は、この部屋の奥にいますよ。」
ドッキリ、にしては大掛かりだし、ドッキリをやる意味も分からない。それに、ドッキリだとしたら私の反応を見て、もう既にネタばらししている頃だろう。
「君たち!ふざけるのも大概にしてくれ。」
「・・・」
「なにか言ってくれよ・・・」
「料理長は、この部屋の奥にいますよ。」
ひっ、と私はたじろぐ。
キッチンはもうダメだ。ここにいては、私までおかしくなってしまいそうだ。
私はキッチンを出て駆け出す。
目の前に人影が見えた。あれはきっと、兵士長のエリアスだ。
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