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桜井は指先でちょいちょいと頬をかき、間を置いてから続けた。
「とはいえ、俺だって最初からおまえだなんて思っていなかったさ。だけど、おまえが情報収集をしているのを見て、もしかしたらって気づいたんだ」
「尾行していたのかよ。でも、なんで情報収集がヒントになったんだ?」
「だって、おまえは俺と一緒にいたから、俺が誰に手を差し伸べたか知っているだろう? でも尋ねるなら、その女子の周辺から聞き込みを行うはずだ」
ああ、彼の言うことはもっともだ。あんな夜中に書いたラブレター、本人が素直に自分のですなんて言うはずがない。誰かに知られたら、それこそ生涯のネタ話にされてしまう。
「それなのにおまえは直接、心当たりのある女子に送り主ではないかと尋ねていた。だから、情報収集の目的は別のところにあるんじゃないかと思ったんだ。それで行き着いた結論が――女子の反応を確かめているんじゃないかということだ」
なんてことだ! いつも飄々としているくせに、どうしてそういうところは機転が利くんだ!
「そう思って読み返すとさ、『面と向かって想いを伝えようものなら、きみは私と距離を置いてしまうに違いありません』っていう一文が腑に落ちるんだよなぁ」
ああ、そこまで察せられてしまってはお手上げだ。ぼくはもう、彼への感情を隠すことができないと観念した。あんな手紙を書かなければ、ずっと気づかれることはなかったはずなのに。
「正直、おまえの気持ちは嬉しいが――だからこそ、俺もちゃんと誠意をもって答えないといけないと思う」
「誠意って……?」
「俺はさすがに男同士でいちゃいちゃしたいなんて思ってはない。だけど、そんじょそこらの女子よりも、おまえのことがずっと大切だと思う気持ちは確かだ。それはいつまでも変わらないから安心しろ」
「桜井……」
やっぱり彼は極上のイケメンだ。友情を尊び、ぼくの哀惜を理解してくれている。
でも――彼にはやっぱり、ぼくに対する恋心なんてあるはずがなかった。
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