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「ぶっひゃあああ!! これ、絶対夜中に書いたやつだよな! なっ!?」と田村がおおげさに声を上げる。
ぼくは肩に腕を回され、無理やり同意を求められた。否定すれば不機嫌になって面倒なので、しかたなく同意することにした。
「あっ、ああ、そうだよな……ははっ」
「しっかしこの内容、めっちゃ恥ずかしいぜ」
真夜中に書いたラブレターを公にする方がよほど恥ずかしい行為だろうと思ったが、ぼくはその言葉を飲み込んだ。
「そういえばおまえ、昨日遅くまで教室で自習していたよな。誰か一緒にいたか?」
「いや、別に気づかなかったけど」
「そうか、心当たりを期待した俺が間違いだったか」
田村はあさましい顔で手紙の匂いを嗅いでいる。犬じゃあるまいし、匂いで相手を特定できるわけじゃないのに。きっと恋する女子の残り香を貪ろうという魂胆だ。
「桜井のやつ、すました顔しちゃってるけど、本当は嬉しいんじゃね?」
と言って教室の最後部に顔を向ける。ぼくも同じ方向に視線を移すと、親友であり手紙の受取人である桜井と目が合った。彼は頬杖をつき、あきれたような表情をしている。
「あーあ、俺もイケメンに生まれたかったぜ!」
田村は体をのけぞらせ、残念そうに天井を見上げた。ぼくはその隙を狙い、田村の手からすばやく手紙を奪い取った。
「あっ、なにするんだよ!」
「これは桜井宛ての手紙だろ? だからぼくが渡しておくよ」
小柄なぼくは持ち前のすばやさで田村の追う手をかわし、桜井の元へと向かう。
「桜井、こいつを受け取ってくれ!」
「おっ、ナイスインターセプトだ!」
桜井は息を合わせ、すれちがいざまに手紙をキャッチした。
直後、チャイムの音に混じって田村の舌打ちが聞こえた。
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