情報収集

1/4
前へ
/10ページ
次へ

情報収集

★ 昼食を終えた後、桜井はぼくを屋上へと連れていった。彼は制服の内ポケットに、あの手紙を忍ばせている。 屋上庭園にはビオラの花が咲き誇っている。桜井は花壇の縁に腰を下ろし、手紙を取り出して開いた。 「しかしこれ、誰が書いたんだろうなぁ」と言って手紙をひらひらとはためかせる。 桜井は長身で眉目秀麗、成績も上位クラスだ。性格は飄飄としているが、困っている人に手を差し伸べる優しい心の持ち主。イケメンとは心身ともにイケメンであって初めて成り立つものだと彼を見て思う。 だから女子に人気があるのも納得できる。高校三年の二学期は皆、受験勉強に本腰を入れる時期だから、告白するなら今しかないと決意する女子は多いことだろう。 ぼくは何人かの女子が彼を好意のまなざしで見ていることに気づいている。皆、彼が手を差し伸べたことのある女子たちだ。 ぼくは思い切って桜井に提案する。 「だったらぼくが情報を集めてくるよ」 「ああ? 聞き込みをするってことか」 「うん。さすがに桜井が自分で聞きに行くのは気が引けるだろ? それに周辺が騒いでカオスになりそうだ」 彼は腕を組んで「確かに」と言い、首を縦に二回振った。 「じゃあ次の美術の時間から、それとなく聞き込みをしておくよ」 「悪いな、さすが俺の親友だ!」 桜井は大きな手でぼくの頭をワシャワシャとかきむしる。ぼくは恥ずかしくなり、ラジオ体操のように上半身を回して彼の手を振りきった。 彼はいつもぼくのことを「親友」と呼んでくれる。そういう関係は誇らしくて心嬉しい反面、永遠ではない気がして少しだけ寂しい。 ぼくは美術系の大学を目指していたので、上京することを心に決めていた。けれど彼は建築業を営む親の跡を継ぐことが決まっていた。 だから、ぼくらが二人で過ごせる気ままな時間は、さほど残されていなかったのだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加