情報収集

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☆ 「おーい、愛衣ちゃん!」 「はうっ!?」 急に背後から呼ばれて、愛衣ちゃんはちょっと飛び上がった。彼女は学級委員をしている、ツインテールの地味なメガネっ子だ。 桜井との接点は、学園祭の企画で催し物のアンケートを取った時のことだった。放課後の教室で、たくさんの資料の本を両手に抱え、その上にアンケート用紙を載せていた。 よろよろと廊下を出ていこうとした瞬間――本が派手に落ち、紙が舞う音がした。 「はうあっ!?」 案の定、愛衣ちゃんは本をぶちまけた。アンケート用紙が宙で踊っている。 「あっ、あうぅ……」 ついでにメガネを落としたようで、はいつくばり両手で床を叩いている。まさに眼鏡を失ったド近眼を体現していた。 すると桜井はすぐさま駆け寄り、ひざまづいて眼鏡を拾いあげ、愛衣ちゃんの顔に眼鏡をかけた。愛衣ちゃんの瞳に桜井の姿が映る。 「愛衣、ひとりで頑張っているな。でも少しは人を頼れ。よかったら俺が力を貸してやる」 愛衣ちゃんは紅の顔で茫然としていた。突然はっと我に返って本を拾い始める。するとアンケート用紙を集めていた桜井と手が触れて、「ひゃああ!」と小さく飛び上がった。 ぼくも落ちたものを拾う手伝いをした。桜井は丁寧にもアンケート用紙を番号順に並べ替える。そのあと桜井は本を自分で持ち、愛衣ちゃんのかわりに運んでいた。愛衣ちゃんは終始、潤んだ乙女の瞳で桜井を見上げていた。 ぼくはその様子を見ながら「いいなぁ……」と羨ましくなった。 ☆ 「もしかしてあの手紙……愛衣ちゃんが書いたのか?」 尋ねると愛衣ちゃんは驚き、両手を顔の前で振りながら否定する。 「あっ、あれはあたしじゃないからねっ!」 「そうか。でも、愛衣ちゃんは桜井のこと、好きなんだろ?」 すぐさまぼっと顔を赤らめてうつむく愛衣ちゃん。返事を聞くまでもなく、表情がそうだと肯定していた。 「……でも、あたしなんか告白しても可能性ないよね」 「どうだろうね」 「だってあんなに情熱的に彼を想う人がいるんだよ!? 勝てるわけがないじゃない!」 それは手紙の差出人のことを言っているに違いない。 「あたしなんて勇気がなくて声かけられなかったし、あれ以来接点がなかったもん!」 「だよなぁ……あいつは真性イケメンだし、競争率高いのは間違いないだろうね」 ぼくの言葉を聞いて、愛衣ちゃんは露骨に肩を落とした。 「あーあ、告白するならもっと早くしておけばよかったぁ……」 きびすを返し、哀愁を漂わせつつ教室へ戻っていった。
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