18人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいおい、なんでぼくが桜井にラブレターなんか――」
「わからないわけないだろ。あの文面の距離感、おまえ以外の誰でもあるはずがないだろう!?」
「そっ、そんなわけないじゃん! だってぼくは男子だよ!?」
桜井は必死にごまかすぼくの心を射抜くようににらんだ。
「ふーん、否定するのか。――じゃあ試してみるか?」
「え……?」
すると桜井は立ち上がり、ぼくの両肩を掴むくるりと体を反転させ、背中から力強く抱きしめた。
「ちょっ……ちょっと!」
長い両腕に包まれて身動きできなくなったぼくの胸元に、彼の手が強引に差し込まれる。手のひらの体温がじかに肌に触れ、心臓が早鐘を打つ。
「なにするんだよぉ!」
身をよじって逃げ出そうとするけれど、彼はぼくを捉えて離さない。胸の前にしばらく手を当てた後、ふっと笑いを含む息を吐いた。吐息が耳元にかかって背筋がぞくっとする。
「ほら、こんなに心臓がバクバク言ってやがるじゃないか。これでも否定するのか?」
彼は確信に満ちた笑みを浮かべていた。だめだ、やっぱり口ではごまかせても、身体は正直だ。ぼくの顔はもう、夕日よりも赤く染まっているはずだ。
「もう、わかったよ。白状するよ。あの手紙はぼくが、書・き・ま・し・た!」
あきらめて息を吐くと、呼吸が熱く震えていることに気づく。彼は荒々しくぼくの頭を撫でた。汗ばんだ地肌に容赦なく指が潜り込んでくる。
触れられるのは恥ずかしいけれど、その乱暴な指遣いが心地よくもある。ぼくはいつだって彼の虜だったのだと認めざるをえない。
「……でも、なんでわかったんだよ」
「まあ、あんなわざとらしい丸文字を書くやつ、このクラスにはいなかったからな」
「って、もしかして」
「愛衣の散らかしたアンケートを回収するとき、ひととおり目を通したからな」
「速読かよ!」
まったく、飄々として鈍そうなのに、その切れ長の目はいろんなものが見えている。
これでもかというほど多彩な恩恵を受けて魅力いっぱいの彼が、ぼくは憎たらしくて羨ましくて――やっぱりたまらなく惹かれてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!