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「えっと、僕は晴といいます。月君でいいかな?」
「はい……」
「私は優と申します。以後お見知りおきを」
そしてしばらくの沈黙、気まずさを打破しようと優が口を開く。
「そいえば、鸚焼さんから月さんに生徒会長の色々を教えて貰え的な事を言われたのですが」
「えっ、何それ……?」
月君は本当に月讀さんから何も聞かされてないようで「晴と言う人物を見て欲しい」と言われ、舞台袖からこちらの様子を伺っていたらしい。月君に事の経緯を説明すると何かを察したかの様に頷く。
「俺、演劇部で役者やる事が多いから多分それでかも……」
「貴方がですか?」
優が疑問に思うのも無理は無い。演劇部の舞台で彼を見た事がないし、少し話しただけだけど、僕と同じであまり舞台向きには見えない。
「見せた方が早いかな……」
月君は目を閉じチューニングを始める「あー」という声が徐々に高音になっていく。
「晴くん!優くん!こんな感じでどうかな?」
月くんは、完全に女性にしか感じない声で先程とは違う雰囲気で僕達に話しかけてくる。先程と同一人物であると言うことを忘れてしまうほどの圧倒的な演技力に驚きの声以外発せず固まってしまう。そうだ、この子は確かに舞台に上がってる……女の子の役として
「どうしたの?2人共」
今度はお姉さんのようなおっとりとした雰囲気で月くんは髪を耳にかける。もしかして
「月くんって女の子だったんだね〜」
「え?」
「勘違いしちゃってたや、男の子で月くんは中々居ないけど女の子だったら納得できちゃった!間違えちゃってごめんね月ちゃん……」
「あぁ、えっと……」
何かおかしい事言ったのかな?申し訳なくて月ちゃんの顔を見ると、なんとも言えない表情になっていて、隣にいる優は全くこちらを見ようとしない。
「そうですね。月さんはきっと訳あってこの男子校に入ってきたんですよきっと。」
「え?無理ありすぎない……?」
「そうなんだ、もう無理しなくて大丈夫だよ、僕達は月ちゃんの味方だから!」
何とも言い難い表情の月ちゃんを安心させようと精一杯の笑顔を向けながら背伸びをし撫でていると、突然優が声を上げて笑い出す。
「ひ〜、腹いたっ!!」
「優どうしたの?!お腹痛いなら保健室に……」
「優クン腹痛で体調悪そ〜、早く保健室連れて行ってあげよ……。」
「待て!月お前は悪意だろ!元気ですからね!」
「ほ、本当?良かった〜!」
「本性出てるよ優クン……?ついでに、俺もれっきとした男だから、何も隠してないよ。」
月くんは、女性の声から声を戻し男性の声に戻り優に少しだけ嘲笑う様な表情を向ける。
「くそ、こいつ……」
「もしかしてまた空回っちゃったのかな、ごめんなさい!」
そう言って僕は深々と頭を下げる。そんな僕の事を見ながら優と月くんは顔を見合せ苦笑いをしている。
「晴はどんな事でも、いつも一生懸命なんです。だから私も、そんな晴が会長になったら今より良い学園になると思ったんです。」
「俺も何となく推薦したくなった理由がわかる気がする……」
「そんな事ないよ。僕なんて、頑張っても何も出来ないし、生徒会長なんて……」
僕は自虐的な笑顔を向けると、二人は片頬づつ僕のほっぺをつまむ。
「いつも晴が何と比べてるか分かりませんが、そいつらの事認めさせてやりませんか?」
「……晴くんが人前に出て堂々と話せるように俺も教えるから」
「僕も出来るようになるかな?」
優と月はその言葉を待っていたかの様に二人は僕の頭を撫で「勿論」という言葉をはハモらせる。
こうして、生徒会長になる為の演技練習が始まった。
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