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まさかと思いながらも、私は振り返った。
すると、二階の観覧席から劇場の舞台を見下ろすように、二階の閲覧エリアの手すりに両肘をつき、両手で小さな顔を支えている少女と目が合った。
「こっちきて」
聞えたわけではない。だが、少女の口は確かにそう動いていたし、手招きもしていた。私は周囲を見渡し、少女が確かに私に向けて言ったのか確認した。周りには誰もいない。少なくとも二階に目を向けている者は。
確かに私を呼んでいるのだと認識した後、もう一度少女がいた場所を見ると、そこにはもう人の姿はなかった。私は視線を二階から降りてくる階段へ動かした。
閉館間際とあって、利用者たちは降りてくる者の方が多い。だが、少女が降りてくる様子はなかった。
私は今日の資料閲覧は諦め、少女がいた二階へと足を向けた。
少しずつ気温の上昇を感じる。胸にもやもやとした嫌な記憶が渦を作る。やはり二階へ行くのは馬鹿げているのではないか。そんな言い訳をして、浮かんでくる過去の苦しいイメージから逃げようとした。
天井からぶら下がっているいくつもの丸いランプが、私の視線と同じ高さで踊り始めた。
「じ、地震?」
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