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思わず階段の途中でしゃがみ込み、すれ違う淑女から「貴女、大丈夫?」と声を掛けられた。地面は揺れていない。ここはほとんど地震のないドイツだ。地震酔いなんて久しぶり起こした。
「ありがとう、大丈夫です」
私が笑顔で答えると、淑女は安心したように私に笑顔を返した。その淑女に、声を掛けられたついでに聞いてみた。
「あの、二階に六歳くらいの女の子は居ませんでしたか?」
「六歳くらい? いいえ、もうこんな時間だしね、私は見ていませんよ」
たしかに夜の十時前。親が付いていたとしても不自然な時間だ。
「そうですか。ありがとうございました」
私はそのまま引き返そうかとも考えたが、地震酔いは神の啓示ではなく、悪魔の妨害ととらえて二階に向かった。
結果はどちらだったのだろうか。少女はどこにもいなかった。ただ、彼女がいた場所に一冊の本が出されたままになっていた。
その本を手に取る。少女には縁のない本だ。だが、私にとってはそうではない。私はその本をカウンターに持っていき、貸し出しの手続きをした。そうすべきだと思わされる本だったからだ。
「でも、どうしようか」
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