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ダミエルさんは電動車椅子を操り、鍋から煮込んでいた塩漬けした豚スネ肉アイスバインを取り出して、一緒に煮込んでいた野菜とスープも器に盛った。アイスバインのポトフだ。
「仕方なく、エンゲルですか……」
何やら思わせぶりな物言いだが、とりあえず今は目の前に出されたポトフで頭も心も一杯になっている。
「じゃあ、いただくか」
テーブルの上には、二人分の食事が並んだ。どう見ても、家主と私の分だ。少女の前には何も置かれていない。
「あの、彼女の分は?」
私がおずおずと聞くと、ダミエルさんはほんの少し肩を上げて答えた。
「エンゲルは何も食わん。だからエンゲルと呼ぶことにしたのさ」
なるほど、と納得していいのか。私はまじまじと少女を見たが、ただ彼女は微笑むだけだった。
「ほれ先生、冷めないうちに食え」
「あ、じゃあ、遠慮なく」
ダミエルさんはイタリア系らしい。その家系からなのか、この国で食べるアイスバインには珍しくトマトが多く合わせられている。私も初めての組み合わせだったが、アイスバインの塩気と、トマトの酸味の奥にある甘味が引き立って、ほろほろと崩れる肉に爽やかなうまみを与えていた。
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