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「美味しいです、とても」
「でしょ!」
なぜか少女が誇らしげにしている。ダミエルさんもそんな彼女につられて、今日一番の笑顔になった。
「トマトは太陽の分身だからな。色々なものに恵みを与える」
「へえ、そうなんですね。イタリアではそう言われているんですか?」
「いいや、儂のオヤジが言っとっただけだ」
そういうと、ダミエルさんは少し目を細めた。その目をしたまま、しばらく時間が流れる。最初に退院を申し出た時のダミエルさんも同じ目をしていた。
彼が退院を、いや、転院を望んだ理由を思い出し、私はつい涙を溢していた。
そして、図書館から借りてきた本を、食器を片付けたテーブルに置いた。
――死を選ぶ権利と自殺ほう助のあり方
スイスの自殺ほう助団体が出版した本だ。
ドイツでも近年、死を選ぶ権利も一般的人格権に含まれると判決が出された。だが、私の勤める病院では、患者の自殺を援助することはない。拒否する権利も当然あるはずであり、それが病院の方針なのだ。
事実、ダミエルさんは死を選び、私の勤める病院を去った。
だが、それは偽りの真実。医師の中には、ビジネスとしての自殺ほう助をする医師もいる。
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