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ベルリンの天使
音楽に取り憑かれてしまった者なら、憧れを持つ場所のひとつだ。古くはバロック音楽の直筆譜が保管されている。
また、映画好きで「ベルリン・天使の詩」を観たものなら、その建築物としてだけでも美しい館内で、本のページを捲ってみたいと思うだろう。
ポツダム通りのベルリン州立図書館。
術後の説明に時間がかかってしまい、夜九時を回ってようやく仕事から開放された私は、閉館間際の図書館に向かった。
速足で歩きながら、きつく纏め上げていた髪を解く。髪を降ろした瞬間、壊死した組織や電気メスで焼かれた筋組織の匂いを感じた。
雪がちらつく日で良かった。寒さは匂いも、そこに付随する記憶も隠してくれる。
図書館のドアノブに横たわるライオンも、寒さに凍えているようだ。
利用者証を提示して、私はいつものように閲覧机が並ぶスペースをすり抜けて奥の書架へと向かった。
少し暖房が効いている。私は匂いと記憶を封印するように髪を雑にひとつに縛った。
その時、背後からの視線を感じた。まるで天使からの視線のようだった。遠くから見られているはずなのに、気配は直ぐ傍、頬の横に感じる。
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