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「徳永がジュリエットやったら、ロミオは低身長のブサメンには無理やなぁ」
男子からそんな声が洩れ、笑いが起きた。徳永はすらりと背が高く、顔立ちも整っている。まあ皆、彼女の横に立つこと以前に、恋愛悲劇の主役なんて、こっ恥ずかしくてやっていられないだろう。
ロミオが出ないと面倒だと遥大が思案していると、ホームルームの進行を黙って見ていた担任の長谷部が、やや無責任に口を挟んできた。
「徳永どうや、相手役に指名したい奴おらへんか?」
徳永はつやつやした長い髪を揺らし、男子たちを女王の如く睥睨した。彼女は決して性格が悪い訳ではないが、何やら常に立ち振る舞いに迫力がある。
「えっと、嶋田くんやったらええかな?」
皆が一斉に、誰も座っていない窓際の席を見た。遥大は不快感を覚えた。その席の主は常日頃から学校生活を軽視しており、こうして大切なことを決める時に、いないことが多い。
遥大の中に、意地の悪い気持ちが湧いた。
「一応、嶋田にしとこか?」
教室内が軽くざわめく。遥大は続けた。
「今日配役決めるて前から伝えてんのに、おらんほうが悪い」
クラスリーダーの冷ややかな声に、嶋田の名を出した徳永が驚いたようだった。
「ちょ、平池くん、そんな決め方でええの?」
「とりあえず決めとくわ」
主役2人が決まれば、後はどうにでもなる。遥大は議事を進行することにした。
ちらっと徳永を見ると、後ろの席の女子から背中をつつかれて、2人して笑いを堪えるようにしてこそこそ話し合っていた。遥大はそれを見て、徳永の指名がガチンコだったと察した。
しょうもな。勝手にやっとけ。
配役が決まると、遥大は大道具係に収まっておいた。これで文化祭は楽勝だ。体育祭もこの調子で、やりたい奴にやらせておくのだ。
遥大の希望していた通りに運び、その日のホームルームは終了した。
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