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「遥ちゃん、おはよう」
カウンターでグラスを拭いていた店長の宮間と、空いたテーブルを片づけるフリーターの金澤がほぼ同時に言った。おはようございます、と返し、遥大は奥の控え室に向かう。ボディペーパーで手早く汗を拭き、Tシャツを替えてエプロンを着けた。そして今日のライブの出演者のために、室内を片づけ始める。食材や飲料のストックを隅に寄せて床にスペースをつくり、普段使わない2人掛けのソファにかけられたカバーを外して畳む。
店に出ると、宮間に礼を言われた。
「もうほんま、遥ちゃん辞めたら、金曜日ライブでけへんようになるわ」
「俺来る前からやってはったじゃないすか」
遥大はややぶっきらぼうに応じた。我ながら、こんな調子でよく働いて来れたと思う。この店のスタッフも常連客も、高校生バイトがちょっぴり不愛想なのを大目に見てくれていた。
大事なことを思い出して、遥大は洗い物をしながら尋ねる。
「店長、今日ライブ始まる前に店の写真撮っていいですか? 文化祭の展示のネタ探してて」
遥大が写真部に所属していることを知る宮間は、あっさり答えた。
「ああ、バンドがええって言うてくれたら、ライブの写真も撮ったらええやん」
演奏中にオーダーをする客はあまりいないので、ライブが始まれば案外暇なのだ。
金澤が、アイスコーヒー2つでーす、とオーダーを告げる。遥大は濡れた手を拭いて、2つのグラスに氷を入れるべく冷凍庫を開けた。宮間は冷蔵庫からアイスコーヒーの入った水筒を出し、金澤はカウンターに入ってきて、コーヒーをドリップする準備を始めた。
「アイスコーヒー、7時までもたへんやろし沸かしときますよ」
金曜のレイクサイドは、会場設営と出演者のリハーサルのために19時に一旦閉店する。それまでどれだけの客が来るかわからないが、今日はとにかく暑くて、アイスのメニューばかり出ているようだった。
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