第4話

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「どうして、猫用なんて持ってるの?」  いそいそと黒いリュックサックに化けた風呂敷包みにクッキーを仕舞う。これだけあれば、明日も空腹に苦しまなくても良さそうだ。 「ハロウィンだからね。現衆はイベント好きだから、新製品を作る度に配布されるんだ」 「……ハロウィンって、カボチャとお菓子のお祭りよね? 収穫祭みたいなのだと思ってたんだけど……、この騒いでるのもハロウィンみたいだし……」 「本当によく勉強してるなあ。元々は仮装してお菓子を貰うお祭りみたいだけど、最近、どんどん変化してるみたいだよ」  彼はというと、小さな封筒のような袋から小さな粒が沢山ついた飴玉を取り出して口に放り込んだ。金平糖というお菓子だ。あの人もよく食べていた。 「毎年、『いつも協力してくれてる猫又の皆さんに』って、配布されるんだ。今日は応援に来てるから、この地域に猫又の知り合いがいなくて……、ちょうどよかったよ」  望は、「現衆(うつつがしゅう)」という組織の人だ。  詳しくは知らないが、隠人(おぬと)と呼ばれる霊獣と人間の混血児を先祖に持つ末裔(まつえい)達が集まっている組織で、人の世に迷い込んだ(あやかし)を保護したり、邪霊を始めとする「(じゃ)」と呼ばれる魔物を鎮める邪鎮めを行っていると、猫又の先輩達から教わった。  彼らが表舞台に出てくることはないが、人間社会に深く関わっていて、天狗が住まう霊山や霊獣の隠里(かくれざと)とも繋がりのある大きな組織だ。  噂では、複雑化する人間社会の邪に対応する為の人手が足りておらず、猫又のような妖にも門を開いているらしい。  昼と夜の境界が曖昧になって住みづらくなってきた現代では、現衆に入って安定した衣食住を得る猫又も多い。『人間から迫害されたら、現衆に相談すれば良い』と行く先々で教わったし、参加を勧められたことも一回や二回ではない。  幸い、現衆を頼らないといけない事態に陥ることなく、この百五十年を生きてこられたので、望が初めて会った現衆の構成員ということになる。
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