この世界のはじまり

1話 すべてのはじまり

これは、太古より古から伝えられているお話。

この世界に、まだ〝人〟という生き物が存在する以前の伝説である。

　かつてこの世界は、天界と下界に分かれていた。天界には背中に翼を持つ天使族が治め、下界は海の民が治めており、下半身に鰭がある人魚族がそうだった。
　天使と人魚には、それぞれ伝えられている伝説があった。
　人魚の民には、好奇心旺盛な人魚の一人が海面に顔を出すと、たまたま下界に降りていた天使に見つかってしまった。その人魚は天使の力によって人魚を海から引きずり出し、干からびせて死なせたと言い伝えられている。
　一方、天使族の方は逆で、下界に降りた天使族の王子を誘惑し、海に引きずり込んで窒息死させたと伝えられていた。
　以来、決して交わることのなかった二種族が再び会ったのは、人魚族の王女と天使族の王子だった。