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第19話 破壊された後輩
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目の三十歳。
最近、気になる後輩がいる。
「花寄さん、ツインテールってどう思います?」
庁内一のクール女子、畑野さんはそう言って溜息をついた。
ちなみに畑野さんの髪はショートカットなので、この質問は不可解だ。
「うーん、若かったらカワイイんじゃない?」
「ですよねえ。若いことは絶対条件ですよね」
どうした、畑野ちゃん。言葉が強いな。
「絶対、ではないと思うけど。どうしたん?」
私が聞き返すと、畑野さんは「聞きたいですか?」ともったいぶった。
聞いて欲しいことがあるから、こんな話題を切り出したのでは?
「昨日、兄の彼女に会ったんですけど。29歳にもなって、長い髪をツインテールにしてぶりっ子してるんです」
「お、おお……」
「都内のカフェの正社員だそうなんです。サービス業なら、ある程度はって思いますけど、バイトじゃなくて正社員なんだから落ち着いたら? って思いません?」
「カフェの雰囲気が、そういうカワイイ感じなのでは?」
私がそう言うと、畑野さんは更に深い溜息をつく。
「そうなんでしょうけど、プライベートでもそういう感じなのかよって思っちゃって……」
裏表がなくていいんじゃないかとは思うけど、多分、畑野さんが気に入らないのはそういう事じゃないんだろう。
お兄さんを取られちゃって、寂しいんじゃない?
畑野さんの味方をして、その人の悪口に乗るのは簡単だけど、長い目で見たらそういう訳にもいかない。
「でもさ、カワイイ格好って単純に気分がアガるよね。私も高校生の頃、友達に遊びでツインテール結んでもらったら、帰り道までスキップしたもの」
「はあ。高校生ならそうなんでしょうけど……」
しまった。若い頃の話だと意味がなかったか。でも私もあれ以来経験がないしなあ。
「鷲見くんはどう思う?」
「あれ、いたの、鷲見君?」
うまい例えはないかと考えているうちに、鷲見君が伝票を持って近づいていた。
「ツインテールは……まあ……破壊、されるよね」
畑野さんの問いに、鷲見くんはボソリと呟いた。
「えー、鷲見くんみたいなムッツリでも、性癖破壊されるんだあ」
畑野、もっと言葉を選べ。
「例えば、花寄さんがツインテールにしたら、どう思う?」
おい! 兄の彼女と年齢が近いからって、私を貶めるのか!
「……ヤバいっすね」
鷲見君は、私をじっと見た後、視線をぐるぐるさせて呟いた。
「ヤバいよねー」
畑野さんの、勝ち誇った冷笑。
お前達、いいかげんにせえよ。
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