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第13話 うすい後輩
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目の三十歳。
最近、気になる後輩がいる。
「花寄さん、またそれ飲んでるんですか?」
向かいの席の畑野さんが指摘したのは、最近の私のお気に入りの乳酸菌飲料だ。
「うん、美味しいよ。薄いカル◯スみたいで」
「……それ、ほんとに美味しいですか?」
畑野さんは怪訝な顔で見てきた。薄いカル◯スを馬鹿にしちゃいけない、若者よ。
「カル◯スはね、薄くても美味しいんだよ。飲み心地が爽やかになって、グビグビいけるでしょ」
「はあ……まあ……薄いですからねえ」
むむ、貧乏人を見るような目だな。その勝負受けてたとうじゃないの。
「確かに、最初はうちに来た友達には嫌がられたよ。でも、私はめげずに薄いカル◯スを出し続けた! そしたら最終的には『さち子ちゃんちに来てコレ飲むと落ち着く』とまで言わしめたんだからね!」
「洗脳じゃないですか」
「違うよー、薄いカル◯スが頑なな友達の心を溶かしたんだよ!」
「ええっと、これの支払い期限は月末だから、いつにしよっかなー」
おおい! 面倒くさくなるんじゃないよ!
「花寄先輩、お疲れ様です」
音もなく静かに忍び寄る。毎度お馴染み、福祉課の鷲見君だ。
何度言ってもたまに「失礼します」を忘れるのね。もう慣れたけど。
「今日はどうしたの?」
「あのこれ、支払日が決まったら対象者に通知したくて」
「そっか、わかった。畑野さん、聞いてた?」
私が向かいの席に首を伸ばすと、畑野さんは指でオッケーマークを作って答える。
「わかりました。後で鷲見くんに内線かける」
「……よろしく」
同期同士なのにわりとそっけないのね。今の若者はこういうノリなのか。
「花寄先輩が飲んでるの、新しいヤツですね」
鷲見君がふと、私の机にある乳酸菌飲料を指さした。
「ああ、これ? 最近のお気に入り」
「なるほど……」
そんなに凝視しなくても、そこの自販機にあるのに。
「美味しいですか?」
「うん、美味しいよ。薄いカル◯スみたいで」
「へえ……それはいいですね」
鷲見君の反応を聞いて、畑野さんは驚きながら言った。
「鷲見くんも、薄いカル◯スなんかがいいの?」
なんかとは、なんだ。
「最初は不味かったけど、ある時から薄くするようになって。それからは薄くないとカル◯スじゃないっていうか……」
「マ・ジ・で!?」
大袈裟に驚くのう、畑野チャンは。
ただ、濃くてもカル◯スはカル◯スだからね?
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