第16話 待ちわびた後輩

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第16話 待ちわびた後輩

 私の名前は、花寄(はなより)さち子。  市役所勤務八年目の三十歳。  最近、気になる後輩がいる。 「ただいまんもすでーす」  二日間の出張を終えた私は、夕方ようやく会計課に帰ってきた。 「ああ、お疲れさん」  この二日間、二人分の伝票審査をこなしていたであろう、係長の涌井さんは心なしか疲れていそうだった。 「まんもす……?」  比べて通常営業の畑野さんは、私のギャグを怪訝な顔で反芻する。顔には「寒いんですけど」と書いてある。 「どうだった、主任研修?」 「うーん、まあまあですかね」  涌井さんがニヤニヤしながら聞くので、私もニヤニヤしながら返す。  この会話には「爆睡しちゃったんじゃないの?」「わかります?」と言う意味が隠れている。  昨日と今日、私は県庁で行われた合同主任研修に、同期の5人で参加していた。  別々に電車で行っても良かったんだけど、鴨川くんが庁用車を予約してくれて運転までしてくれた。 「久々にみんなで騒ぎながら行こうぜ!」という音頭に全員が乗ったのだ。  ちゃらんぽらんで適当なヤツだけど、こういう時には頼りになる。  おかげで満員電車に乗らなくてすんだし、道中もおしゃべりできて楽しかった。 「あ! 鷲見(すみ)くん、久しぶり!」  涌井さんが手をあげて弾んだ声を出した。  見ると、会計課の入口で、福祉課二年目の鷲見君がやや挙動不審にこちらを窺っている。 「どうした、ここ二日ばっかり全然来なかったじゃないの」  涌井さん、随分とニヤニヤしてない? 「いえ、来てました。伝票はちゃんと出してます」  鷲見君はおずおずと入りながら、なんだか罰が悪そうに言う。 「やあ鷲見君! ただいまんもす!」  私は研修を終えたばかりでハイになっていて、鷲見君にピースした。 「お、お帰りなさい。お疲れ様でした……」  鷲見君は、はにかみながらもなんだか嬉しそうに私の所に来る。 「花寄さん、私にウケなかったからって、鷲見くんでリベンジしましたね」 「なんてこと言うの、畑野さん! その通りだよ!」  クール女子とのいつもの軽快な会話を、鷲見君は珍しく「あはは」と声を上げて笑っていた。 「花寄先輩、これどうぞ」  鷲見君が出してきたのは、庁内自販機で人気ナンバーワンのエナジードリンクだ。 「えーいいの? ねぎらいだあ、嬉しいなあ」  私は缶コーヒーと同じ大きさの赤い缶を受け取った。 「うん?」  何故か鷲見君は、私が受け取っても缶を手放さなかった。 「む?」  一瞬だけ鷲見君と私の缶の取り合いが発生し、その後、鷲見君は実ににこやかな顔で手を離す。 「間接握手、ありがとうございます」  それは、どこの文化だい?
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